小説 アンドロイド 「AYA/2nd」 連載5
帰りにナム・プリックでお昼ご飯を食べて帰ろうなどと考えながらコンビニの前を通りかかる。制服は着ていないが、高校生風の男子が三人、店の入り口の横にべったりと座り、タバコを吸っていた。真ん中の男は痩せて背が高く、暗い目をしていた。右側の男は小太りで、高校生なのにすでにお腹が出ている。もう一人は小柄で、人を見下したような横柄さを感じさせる。三人とも一見普通の格好だが、全体から滲み出るある種の「くずれ」は隠せない。周りには彼らが飲み食いしたと思われるカップ麺の屑や、飲み物のペットボトルが散乱していた。昇は「やれやれ」と思いながら、珍しくもない光景を通り過ぎようとした。その時、亜弥がゆっくりと高校生に近づき、吸っていたタバコを一本ずつもぎ取ると、まとめてサンダルで踏みつけ火を消した。何をされたかよく理解出来なくて、唖然としている男子達を尻目に、彼らが散らかしたゴミを一まとめにし、真ん中のひときわ暗い目をした男の膝の上に載せ、
「捨てなさい」
と、するどく言った。やっと、自分たちのされたことを理解した男子達が「何だ、てめぇは!」 と、立ち上がり、亜弥を取り囲んだ。背の高い男が、血管の浮いた細い腕を伸ばし、亜弥の胸ぐらを掴もうとした。ほとんど同時に男が宙を飛んで背中をアスファルトに打ち付けた。
「このやろー 」
小太りが蹴りを入れ、もう一人が続いて殴りかかる。亜弥は小太りの蹴りを五指を張った右手首で、すくい上げるように受けながら流し込み、そのまま腕
の第一関節に挟み込む。バランスを失った小太りは、仰向けにひっくり返り、
アスファルトに頭を打ち付ける。続いて、亜弥は、もう一人の突きを内受けで
かわす。かわした手のひらに十分にバネをきかして男に目打ちを決める。突然の衝撃に、三人の男子はすっかり戦意を失くした。背の高い男が逃げるように立ち去ると、後の二人もそれを追いかけた。 昇は、突然のCMのワンカットのような場面に、動くことさえ忘れ、ぼんやりと亜弥を見ていた。
「昇、さあ、行こう」
亜弥の言葉にやっと自分を取り戻した昇は
「おい、無茶すんなよな」
と、やっとひとこと言えた。
「だって、私の頭には、『未成年はタバコを吸ってはいけない。ゴミはゴミ箱へ』って書いてあるんだもの」
と、笑いもせずに亜弥が言った。
どうにか気を取り直した昇は、亜弥が着られそうな服と、今夜と明日の分の食料品の買い物を済まし、「ナム・プリック」で、ようやく一息ついた。亜弥は、水の入ったコップを珍しそうに眺めてから、チョコレート色の瞳を昇に向けて尋ねた。
「ねえ、昇。私がしたことはダメなことなの」
「いや、間違った事じゃないよ。ただ、突然だったので驚いただけさ。亜弥のプログラマーはイマジネーションはまったく足りないけど、公徳心は強いようだね。でも、状況などまったく考えずに起動するようにセットされている。ホントに驚いたよ。
本当は大人の誰かが注意しないといけないんだ。でもね、やっぱり怖いし、正義感を出して殺された人だっている。みんな亜弥みたいにやりたいと思ってもなかなか出来ないのさ。でもね、今日のような事は、いつでもやってもいいわけ……」
昇は何だか自分に言い訳しているようで、途中で話を止めた。手を大きく挙げて、タイ人の女主人を呼び、いつものトムヤムクンとフランスパン、そしてビールを注文した。(第一章完、第二章につづく)
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