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2012年3月31日 (土)

小説 アンドロイド「AYA/2nd」第二章 連載7

二人はフード付きコートを着てマンションを出た。もうそろそろ師走に近い深夜の気温はさすがに低く、夜気の冷たさを肌に感じる。オオカミでも吠えそうな満月が、南南西の空にその存在感を誇示していた。小高いマンションから市道に出て、コンビニまでの歩道を歩く。さすがにこの時間は、人通りもなく、時折、駅に向かう空車のタクシーと、駅から住宅街に向かうタクシーが通り過ぎていくだけである。

10分ほど歩くと、コンビニの照明が見えてきた。一台の車も止まっていない駐車場が異様に広く感じ、いっそう閑散としてみえる。近所の住人らしい、グレーのスウェットの上下の男が吸っていたタバコを入り口近くの地面に放り投げた。火はまだ点いたままであるが、男はそれを踏みつけようともしない。ズボンの後ろのポケットは財布の重みで垂れ下がり、ズボンの右側がずれ落ちそうである。分厚い靴下にサンダル履き。男は店に入る。

「天を仰いで唾するか……」

男を見ていた昇が呟く。

「ん、何?」

亜弥が昇を見上げて訊ねた。

「あいつのことさ。自分に返ってくるんだよ」

「何が返ってくるの?」

「火の点いたタバコさ」

ふーん、と、亜弥は面白そうに応える。

昼間は感じられない自動ドアの開閉音を十分意識しながら二人はコンビニの店内に入った。

カウンターに若い男の店員が一人、プリントアウトされた伝票の一覧をチェックしている。店内には客が三人。薄めの革ジャンパーを着た学生風の若い男、都心からの最終電車にかろうじて間に合ったと思われるスーツ姿のサラリーマン風三十代の男性、スウェットスーツを着たさっきの小太りの男。それぞれが目当ての品物を物色していた。

深夜のコンビニには不思議な魅力があると昇は思う。特に欲しい物がなくとも、深夜にコンビニの側を通りかかると、その明かりに誘われるように店に入ってしまう。昼間とは違う静かな店内に入ると妙に落ち着いて、さほど必要でもない雑誌や飲み物などを買ってしまうことが多い。同時に、こんな人の少ない所にコンビニ強盗などが入ったらどうなるのだろうなどと、時々見るニュースの場面などを想像してしまったりもする。強盗にとったら、こんなに入りやすい店はないのではないかなどと要らぬ心配をしてみたりする。

亜弥は、いつものようにひとつひとつの品物を覚えるかのようにじっと見ている。昇がフランスパンとヨーグルトと、昨日発売になったばかりのコンピュータ関係の雑誌を買い物かごに入れて、レジに向かおうとしたその時、バイクが店の入り口のすぐ前に止まった。上向きのヘッドライトがコンビニのロゴの間からギラッと光る。男がフルフェイスのヘルメットを被ったまま自動ドアに近づいてきた。バイクのエンジンは掛けたままである。昇は心臓が大きくドキッと打つのを意識しながら自動ドアを凝視した。亜弥以外の三人の客も一斉にそちらを見た。

自動ドアが不必要に大きな音を立てて開いた。180センチ近い男が入ってきた。着古した黒い革ジャンにジーンズ。柔らかそうな革手袋にスニーカー。不似合いな小さなデイバッグ。濃い灰色のフルフェイスにはスモークの風よけがついていて顔はまったく見えない。店に入ると、男は何の躊躇も無く、まっすぐにレジに向かった。店員が伝票を見ながら、マニュアル通りに

「いらっしゃいませ」

と、大声で言い、顔を上げて男を見た。フルフェイスを見ると、これもマニュアル通りに

「お客様、店内ではヘルメットを脱いでいただくこと……」

そこで言葉を飲み込んだ。そして、男の右手の拳銃を食い入るように見た。(つづく)

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