« 小説 アンドロイド「AYA/2nd」第二章 連載9 | トップページ | 桜 散るらむ…… »

2012年4月 9日 (月)

小説 アンドロイド「AYA/2nd」第二章 連載10

男は、そのわずかな隙を逃さなかった。サラリーマン氏を払いのけ、二人の男を蹴って立ち上がり、すばやくカウンターをくぐり、おでんの大きな鍋を通路に払いのけ、自動ドアに向かった。床にはおでんが飛び散り、具のひとつひとつが微かに湯気を立てながら行き場を失った。あっと言う間の出来事だった。五人が一斉に追いかけた。しかし、入り口に散らばった照明器具のガラスの破片を前に、靴を履いていない五人は思わず立ち止まってしまった。男は、泣きながらうずくまっていたスウェットの男を踏みつけ、空いたままの自動扉から外に飛び出した。亜弥だけがガラスの破片の上を歩き男を追った。しかし、亜弥が外に出たときは、二五0CCのオフロードバイクが後輪をスリップさせながら市道に入るところだった。同時に、赤色灯を点滅させてサイレンをならしながら、パトカーと、先導するように白バイが二台、猛烈なスピードでコンビニに近づいてきた。亜弥がバイクを指さすと、白バイを一台残し、そのままバイクを追跡した。パトカーの四秒周期のサイレン音と、耳の奥に突き刺さるような高音の白バイのサイレンが不協和音を響かせなから遠ざかっていく。

亜弥が店内に戻ると、五人がそれぞれ心配そうに迎えた。五人ともすでに靴を履いていた。

「亜弥、犯人は逃げたのか」

昇が興奮気味に訊ねる。

「ええ。でも、捕まるかどうかはわからない。バイクは何処へでも入り込めるから」

亜弥は特に興奮した様子もなく冷静に答えた。

「そうだね。また何処かのコンビニで出会うかも知れないな。そうならないと良いけど」

その時、白バイの警官が、短い警棒を手に店内に入ってきた。すばやく店内の様子を確認すると

「皆さんお怪我はないですか」と訊ねる。

スウェットスーツがおずおずと、

「あのー、もう帰ってもいいでしょうか」と、警官に訊ねた。

警官は、スウェットスーツを一瞥すると

「申し訳ありませんが、少し事情を聞かせていただきます。皆さんにも」

と言って、五人を順に見る。最後に見た昇に視線が止まる。昇は仕方なく簡単に経過を説明する。そして、亜弥の行動については特に慎重に

「妹の亜弥は、子どもの頃から少林寺拳法をやっていたので、怖いのに、夢中で犯人に抵抗し、運が良かったのか、習った技で必死に犯人を取り押さえたようです。すごく怖かったと思います」

と、さも恐ろしそうに付け加えた。隣の亜弥は下を向いている。

「そうですね。今回はたまたま無事だったようですが、非常に危険な行動です。二度目はないように気をつけてください。ところで、妹さんは何段ですか」

一瞬何のことかわからなかったが、

「あっ、よ、四段だったよな」

と、亜弥の方を向いて昇が答える。亜弥は下を向いたまま小さく頷いた。警官は、事件に対する昇の説明を確認するように他の四人を見る。四人は一斉に頷く。

「今日のところは、遅いですから皆さん帰ってもらって結構です。もしかしたら、後でもう少し事情をお聞きするかもしれませんので、一応住所と名前、年令を書いていってもらえますか。あなたはもう少し話を聞かせてください」

と店員を見て言った。昇達と三人の客は、警官の差し出すメモにそれぞれ住所と名前、年令を書く。昇はほんの少しだけ考え、亜弥の年令を二十二才と書いた。

「あっ、そうだ。これ犯人から取り上げた拳銃です。お渡ししておきます」

昇は注意しながら拳銃をポケットから取りだし、銃口を自分の方に向けて、メモといっしょに警官に渡した。

「ご苦労様でした」

と、丁寧に挨拶して店を出た。店を出るときに、昇はチラッと振り向く。まだ少し青ざめた顔の店員が真剣に警官と話しているのが見えた。大学生風が近づいてきて、

「すごかったスよね。ゲームみたいだったな。でも、妹さん強かったスよね。カッコ良かったな――。こんな経験って滅多にあることじゃないからな。何かゲームのテーマに出来そうスね」

大学生風は何だかまだ興奮して、亜弥を惚れ惚れとした目で見ながら言った。

「いやいや、妹は夢中でやっただけで、今はすごくこわがっていますよ。それに、コンビニ強盗なんてありふれすぎてゲームにはならないですよ」

昇は、これ以上事件の話をしたくないという雰囲気を感じさせるように話した。亜弥は黙って下を向いている。

「そうでしょうね。怖かったでしょう。僕なんか今も少し震えて、きちんと歩けない位です。でも、凶器を突きつけられて脅されると、人間って弱いですよね。まったく何にも出来なくなりますからね。一対六なのにね」

いつの間にか側にいたサラリーマン氏が自嘲的に話すのを聞いて、昇は

「それじゃ、失礼します」と言って足早に三人から離れた。

二人が市道に出て少し歩いた頃、サイレンを消して赤色灯だけ点滅したパトカーがコンビニに入っていった。

「昇、私は妹なのか」

「妹みたいなものさ。それが一番無難だと思う。あれこれ詮索されると困るからね。でも、マスコミに知られたりすると困るな。何か対策を考えておかないとね」

「マスコミってそんなに大変なのか」

「全部が全部そうだとは思わないが、懲りない連中がいっぱいいるからね。関わらない方が無難だよ。ところで君には格闘技のスキルがプログラミングされているようだね。あれだけ冷静に判断できて、確実に技が使えるなんてまったく大したもんだ。君のシステム設計者は、少し偏っていると思うけど確かにすごい。まったく一流だね。今度は何が起こるか楽しみだよ」

苦笑しながら昇が言うと

「私には昇が楽しんでいるようには見えない。そして、今度何が起こるかなんて私には予測できない」

まっすぐ前を向きながら亜弥が答える。

「まったく君には冗談も通じない。まあ、ぼちぼちわかるようになるか。人間のコミュニケーションって結構複雑だからね。それはそうと、フランスパンとヨーグルトを買うのをすっかり忘れてしまった。でも、こんな時間じゃどっちみち朝食は無理だね。ひと眠りしたらどこか外で食事をしようか」

すっかり冷えてしまった体を心持ち寄せ合うようにして、二人はゆっくりした坂道を上った。満月は随分西の方に傾いて朝の到来を予告している。今時珍しい、痩せた野良犬が道を横切って、ちらっと二人を見て、寒そうに路地に消えていった。

「妹か……」

昇は誰に言うともなく呟いた。(第二章完)

|

« 小説 アンドロイド「AYA/2nd」第二章 連載9 | トップページ | 桜 散るらむ…… »

小説・童話」カテゴリの記事

コメント

第二章はおわりですね。
昇は日々成長?していくAYAに惹かれていくような気がしますが、AYAには恋愛に関することが、プログラミングされているか、とても気になりますね。

第三章はどうなるか楽しみです。

投稿: くるたんパパ | 2012年4月10日 (火) 05時44分

第三章はどうなっていくんでしょう?

それにしてもAYAは、コンビニの人達にも
警察官にも気付かれないとは、本当に
精巧にできているんですね。(^~^*)

私もくるたんパパさんと同じことを考え
ていました。昇とAYAの間に何か芽生えて
くるのかなと。

投稿: casa blanca | 2012年4月10日 (火) 14時07分

もう読み出すと止まらず、一気読みsign03happy02
手に汗握る感じが凄いですshine
毎回凄いですねgood
続きを楽しみに待ってますbookheart04

投稿: りえ | 2012年4月11日 (水) 22時38分

くるたんパパさん
いつもご愛読ありがとうございます。
風邪をひいてしまい体調が悪くコメント遅れて申し訳ありませんでした。

>昇は日々成長?していくAYAに惹かれていくような気がしますが

実は昇には恋人がいます。でも、亜弥に惹かれていくのかもしれませんが、そのあたりはどうなるのか作者にもわかりませんcoldsweats01

投稿: モーツアルト | 2012年4月12日 (木) 13時32分

casa blancaさん
いつもご愛読いただきありがとうございます。
はい、結構精巧に出来ています。でも、どこか欠点がないといけませんね。これから考えます。

昇には恋人がいるのですが、次章で?遭遇します。
お楽しみにhappy01

投稿: モーツアルト | 2012年4月12日 (木) 13時40分

りえさん
読んでいただきありがとうございます。
皆さんのご期待に添えられるかわからないのですが、がんばって連載していきます。どうかこれからもご贔屓にhappy01

投稿: モーツアルト | 2012年4月12日 (木) 13時42分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/187847/54429392

この記事へのトラックバック一覧です: 小説 アンドロイド「AYA/2nd」第二章 連載10:

« 小説 アンドロイド「AYA/2nd」第二章 連載9 | トップページ | 桜 散るらむ…… »