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2012年4月26日 (木)

小説 アンドロイド「AYA/2nd」第二章 連載14

確かに布団の上に、昇のトランクスと亜弥のショーツが絡み合うようにあった。

「こ、これは亜弥が洗濯物を干すときにうっかり落としてしまったものだよ。な、なあ、亜弥」

弁解したり、あせったりする必要なんか何も無いはずなのにと思いながら、昇は亜弥に同意を求める。

「私にはわからない」

亜弥が平然と言う。そして、昇の顔をチラッと見た。表情は変わっていないが、その目に、微かに悪戯っぽい光を昇は見たような気がした。

「ふーん、洗濯物ね。うまいこと落ちたものね」

美憂は確かめもせずに昇の方を見て

「これはお土産のケーキよ。とってもおいしいので食べてみてね」

と言って、両手で持ったケーキの小箱を目の高さまで上げると、そのまま床にたたきつけた。床に落ちた小箱からモンブランとチョコレートケーキ、ショコラのロールケーキが飛び出し、ラグにべたっと張り付いた。美優はそのまま玄関に向かい、あっという間に外に出てしまった。あわてて走る昇が、転がったケーキを踏んだ。クリームの嫌な感触を足の裏に感じながら美憂の後を追った。チラッと振り返って見た亜弥の顔がにやっと笑ったような気がした。

生クリームのついた素足のまま、スニーカーを突っかけ外に出た。少し冷たい風が、昼前の穏やかな空気をかき乱すように吹いていた。昇には温度の変化を感じる僅かな精神的な隙間さえなかった。ゆるい下り坂を前のめりになりながら走り、何の躊躇もなく大股で歩く美憂にやっと追いついた。弁解するのも馬鹿らしいと思いながらも

「美憂、これは完全な誤解だよ。前にも話したように亜弥はアンドロイドだ。それが僕と寝たりすることはあり得ない。僕らの常識からすると確かに信じることは難しいかもしれない。僕だってこの状況をうまく解釈できていない。でも、亜弥がアンドロイドで、僕の部屋にいっしょに居ることは、今日が12月13日であることと同じくらい確かなことなんだ。うまく信じられないかもしれないけど、僕が、そんな手の込んだバカみたいなウソを言うはずないだろう」

美憂は振り向いてジロッと昇を見つめ、足を止めた。

「……そうね、確かに、昇がそんな馬鹿げたウソは言わないわね。私の常識の回路はまだかなり抵抗しているけど、あなたがそんなウソを言う人じゃないことは確かなことね。でも、何だかとても腹が立つ」

と言いながらも、顔中に貼り付いていた強ばりが少しずつ緩んでいく。美憂の変化する表情を見て、昇はちょっと安心した。そして、美優の手を取って、近くの、コーヒーショップも兼ねているパン屋さんに誘った。ガラスのドアを開くと、外から見るよりも店の中はずっと広かった。壁に沿って棚があり、幾種類ものパンが種類毎にバスケットに入り、きれいに並んであった。店の半分ほどに、四人がけのテーブルが三つと二人のテーブルが一つある。客は誰もいない。テーブルもイスもきちんと並べられていて、驚くほど端正で、清潔だった。昇は、予め決められたルールを守るかのように、木製のプレートと金属のトングを持ってそれぞれのパンを一つずつ選んだ。レジには、五十台の男性が一人立っていた。ここに立っているよりは、役所の奥の方の机に座っているのが似合いそうなこの人は、それでも、サロンエプロンを身につけ、何とかこの店に馴染もうとしている。昇はパンの代金を払い、コーヒーを二つ注文して、奥の二人がけのテーブルに美優と座った。道路側にある出窓風になった窓の内側に、小さな観葉植物が二つ、暖かな日差しを浴びていた。この日差しからするとそろそろお昼かなと、昇は思った。

「彼女は部屋でどうしているの。ちょっと大人げないことしたかな。その、いくらアンドロイドといってもね……」

ちょっと反省している風な美憂を見て、昇はやっと緊張が解けた。

「亜弥はいつものように音楽を聞いて、本を読んでいると思う。ちょっと気が利くようになったから、その前にケーキを片付けているかもしれないな」

「いつまであのロイドちゃんといっしょに居るつもりなの」

美憂は、昇が名付けた亜弥という名前が気に入らないらしくわざとそんな風に呼んで、何の装飾もないプレーンなパンの一かけを口に入れた。左側の頬がプッと少し膨れてゆっくり動いた。えくぼが見えなくなった美憂の頬を見つめて、昇は少し微笑んだ。

「さぁ、僕にもわからない。モニター期間がいつまでなのか書いていないし、問い合わせ先も書いていない。でも、今のところ特に不具合もないし、僕が困ることは何にもないようだ。それに……」

ちょっと可愛いしね、というセリフを昇はあわてて飲み込み、一呼吸置いて

「最近いろいろと家事を覚えて、ちょっと助かるところもある」

そう言って昇は、美憂と目を合わせないようにコーヒーを飲んだ。

「私も時々様子を見に来るわ。何か困ったことがあったらいつでも連絡して。それと、今度のコンサートとても楽しみにしている。もうすぐね。昇は風邪など引かないように十分注意してね。少なくともコンサートが終わるまではね」

美憂は少し心配そうな顔でそう言うと、残りのパンを小さな口に全部押し込んで、残ったコーヒーをグイッと一飲みした。

昇が部屋に戻ると、亜弥は、予想通りウォークマンで音楽を聞きながら本を読んでいた。昇に気がつくと、新書版の「すぐにわかる現代の世界情勢」を閉じて、おかえりって、目で言った。ラグに散らばっていたケーキはきれいに片付いていた。

「美憂はどうした」

一応は気にしていたことを知って昇は少し驚いた。

「うん、機嫌良く帰ったよ。それよりも、亜弥、君はわざと洗濯物を僕の布団の上に置いたんじゃないか?」

亜弥は、昇の質問にはまったく答えず、ウォークマンを聞きながらラグの上で不自然なストレッチを始めた。(第2章完)

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コメント

美憂は、高い所から物を落とすのが
お好きなようで...(^~^*)

不自然なストレッチって、どんなんだろう?亜弥は、もしかして人間の心を持ち始めちゃった?

投稿: casa blanca | 2012年4月26日 (木) 23時17分

人間特有?ジェラシーっていう感情は必要なのでしょうか。度が過ぎるのはよくない結果をもたらしますよね。

亜弥はそんな心を持ち始めたのかな。

casa blancaさんと同様に、そんな感じがしますね。

投稿: くるたんパパ | 2012年4月27日 (金) 05時17分

casa blancaさん
亜弥は、昇をからかっているみたいな所があるようですよ。

美憂のような恋人ってスリルありそうですね。
第3章も良かったら読んで下さいね。

投稿: モーツアルト | 2012年4月28日 (土) 00時07分

くるたんパパさん

>亜弥はそんな心を持ち始めたのかな。

学習しながらどんどん進化していくというか、人間みたいになっていくような気がします。でも、やっぱりどこか違うのですよね。

そのへんのギャップをどう表現するのかが課題だと思います。
良かったら、第3章もよろしくお願いします。

投稿: モーツアルト | 2012年4月28日 (土) 00時10分

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