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2012年4月28日 (土)

小説 アンドロイド「AYA/2nd」第4章 連載15

第4章 聖クリスマス・コンサート

12/20 12:05 線路の向こうに犬がいた。オレを見て吠えた

12/20 12:07 オレが不細工だからか きっとそうだ

12/20 12:10 散髪行った。不細工のくせに髪切った

12/20 12:12 隣の女の人が寝てる 寄りかかられると困るので逃げた

12/20 12:20 大学生の群れが乗った 電車で大騒ぎ

12/20 12:23 こんな明るい性格じゃないと彼女はもちろん女友達もできないんだ きっと

12/20 12:25 真面目に生きると損 どうせ彼女もできないし

12/20 12:30 望まれずに生まれて 望まれて死んでいくのか

12/20 12:33 小学生の女の子が話しかけてきた オレは逃げた

12/20 12:35 どうせオレは不細工だから

早く切ってしまったら良いのにと思いながら、昇は掲示板の書き込みを見ていた。聞きたくもないのにつづきが気になるひどいうわさ話のように、胸の中に不快感をため込みながら、なかなか掲示板を移動出来なかった。

いつもの男だ。「自分は不細工であること」「イケメンへのひがみ」「自分以外には彼女がいること」。継続的で執拗で無意識なコンプレックスを持っている男。昇は学生時代に読んだユングの精神分析を思い出した。「個人的無意識は、意識層の自我に隣接し、かつては意識層にあったものや忘れ去られた記憶や感情、思考を内包する。普遍的無意識は個人的無意識よりも深層にある。そしていずれも意識されることはないが、形成された普遍的無意識が下地となり、個人的無意識のなかにこそコンプレックスを生み出すことになる」この男はまさにそうだと思う。無意識の中で増幅するコンプレックス。それはコントロールされることなく増幅し、危険なエネルギーを持つ。

「昇、今日はでかけないのか」

亜弥の言葉で昇は我に返りケータイを閉じた。穏やかな日差しがソファーの隅々まで当たり、その陽だまりの中で亜弥は本を読んでいた。

「もうお昼か。そうだね、久しぶりにナムプリックでトムヤムクンでも食べようか」

風は冷たいが、日差しの暖かい暮れの街を、二人は駅前に向かって歩いた。

12/25 13:00 「ちょっとしたことでキレる」満たされた人がよく言う

12/25 13:05 ずーとぎりぎりいっぱいだったからちょっとしたことでキレるんだ

12/25 13:10 今日もちょっと体調が悪い

12/25 13:13 ちょっと雨 準備は完璧なのに

12/25 13:15 まあ、いいや 雨天決行

12月25日、木曜日。午後5時30分の定時になると同時に、昇はシステム管理室を出た。

「木村さん今日は早いね」

IDカードを首にかけた同僚が、廊下で声をかける。

「今日はちょっとね」

昇がにっこり笑って答える

「メリークリスマス!」

同僚が軽く右手をあげてすれ違った。6時開場、7時開演。何度も見たはずのチケットを、もう一度スーツの内ポケットから取り出し時間を確認した。六時半に会場入り口で美憂と待ち合わせをしている。時間は十分にある。午後まで降っていた雨はすっかり上がっていた。駅まで歩いて、地下鉄に乗るつもりだ。イブである昨夜と比べると、クリスマスのイベントはすでに下火で、気の早い店では、クリスマスのPOPをすっかり片付け、お正月の飾り付けをしている。昇は、目まぐるしく移り変わる街の様子を見ると、この国の柔軟さとたくましさに驚いてしまう。駅に着いて、地下鉄への階段を降りた時、階段を上ってくる黒いキャップの男とすれ違った。黒いダウンにジーンズ。黒いスニーカーの若い男とすれ違いざまに、ほんの僅か目があった。何の関連もなく、昇は掲示板の書き込みを思い出した。嫌なニュースを見た時のような胸の悪さを一瞬感じ、打ち消した。(つづく)

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コメント

クリスマスの様子がとてもリアルですね。

>学習しながらどんどん進化していくというか、人間みたいになっていくような気がします。でも、やっぱりどこか違うのですよね。

普通だと亜弥が嫉妬という感情を持つようになるのでしょうけど、モーツァルトさんはもっと違うことを考えてますね。

掲示板の書き込みが気になります

投稿: くるたんパパ | 2012年4月29日 (日) 07時32分

黒いスニーカーの男って、まさか
あのコンビニ強盗? 
まだ捕まってなかったですよね。

ランチの後、亜弥は帰宅したのかな。
じゃあ、昇と美憂が事件に遭遇する
のかしら? 楽しみ~

投稿: casa blanca | 2012年4月29日 (日) 14時13分

くるたんパパさん
いつもご愛読ありがとうございます。
この章の話は、秋葉原の無差別殺人事件をモチーフにしています。
何故こんなことが起こってしまうんだろうってズーと考えていました。
でも、なかなか小説にするのは難しいですね。

投稿: モーツアルト | 2012年4月29日 (日) 22時12分

casa blancaさん

>黒いスニーカーの男って、まさか
あのコンビニ強盗? 

いいえ、違うんです。あのコンビニ強盗はまた違う事件で登場して貰おうと思っています

昇と美憂が遭遇します。良かったら続きを読んで下さいね<(_ _)>

投稿: モーツアルト | 2012年4月29日 (日) 22時17分

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