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2012年5月15日 (火)

小説 アンドロイド「AYA/2nd」第4章 連載18

12/25 20:10 時間でーす

昇が男に飛びかかろうとしたちょうどその時、男の右手から人影が飛び出した。男の右手に両手で掴みかかり、ねじり上げた。ナイフが落ちる。少し遠巻きに取り囲むたくさんの人々からは何の音も無い。落ちたナイフが「カラン」と大きな音を立て、二回転がってピクンと止まる。血と脂の付いた刃先が照明を受けて鈍く光り、ひどく場違いな光景を演出する。男は顔を歪めて、男にとって極めて正当な行為を阻止した人物に目をやった。そして、驚いたように顔を歪めた。亜弥だった。その瞬間、亜弥は捻った男の腕を少し上げ、腹部を開放し、角度をつけて、鋭く、力を込めて、みぞおちに膝蹴りを入れた。男はうめき声と共に、直前に食べた、未消化のスナック菓子を少し吐き、その上に自分の顔を乗せるように崩れた。駆けつけてきた警備員が二人、一人は男の腕をねじ上げて馬乗りに。もう一人はロープですばやく両足を縛った。昇が出来事に気づいてからわずか三、四分のことである。

美優は大きく目を開いたまま、声も出さず男を見つめていた。膝が小刻みに震えている。昇が近づくと、初めて自分の音声機能に気づいたかのように、泣きながら抱きついた。パトカーのサイレン音が徐々にその音量を増してきた。

足のロープを外され警察官に連行される男が急に大声で笑い出した。笑いながらひときわ大きな声で叫んだ。

「俺はやった。俺はやったんだ。バカにするな!」

そして、手錠をされた両腕を高く上げようとしたが、警官に引き戻され同時に脇の下に激しい肘打ち受けた。男は胃の底から絞り出すようなうめき声を出し、引きずられるように連行されていった。担架から少しだけ出ていた女性の手は驚くほど白く、多くの人々の息をのむ音が聞こえてきそうだった。ロビーは不自然な緊張感とささやかな安堵に包まれていた。そして、多くの人が一様に寡黙だった。

昇の方に近づいてきた亜弥に

「助けてくれてありがとう」

と、美優が小さな声で言った。

「特に美憂だからしたわけじゃない。人は理不尽に殺されてはいけない」

それを聞いた美優は

「何を言ってるの、現実に多くの人が理不尽に殺されているじゃない。六年前には大阪で、八人もの小学生が殺されている。神戸のJRでたくさんの人が理不尽に死に、東京でも、長崎でも一度に何人もの人が殺されているのよ。それを誰も助けることが出来なかった。今日だって……あなたはそういう人のすべてを救うことが出来るの?なぜこんなバカバカしいことが起きるの!」

美優は、叫んだ。そして、子どものように大声で泣いた。昇には、美憂の言葉が、決して亜弥に向けられたものではないと思った。美優は、目の前のこの不条理ないくつかの死と、自分に降りかかろうとした唐突な死の危険を目の当たりにして、次つぎと湧いてくる怒りとか、悲しみとかをうまくコントロールすることが出来なかったのだと思う。亜弥は、いつものように、意識的なのか無意識なのか、まったくそれには答えなかった。その代わり「そんなことは私が答えるべきものではない」という目を一瞬だけ美優に向け、昇が忘れてきたクリスマスプレゼントを昇に手渡すと人混みに紛れた。

後半のステージが完全に飛んでしまったコンサート会場を、二人はやっと出ることができた。薄明かりに浮かぶ広場の時計は十時を回っていた。路上ライブのアーティスト達も、数時間前に溢れかえっていた観客も今はいない。月の無い空に無数の星達が、冷たく澄んだ大気を通して、無関心に輝いていた。控え室でしばらく休んだ美優は落ち着きを取り戻していた。

「何だか、何もかもウソみたい。でも、ウソじゃないのよね。あの二人は死んでいた。二時間前にはコンサートを楽しんでいたのに……」

「死んだとは限らないよ。病院に運ばれたから助かる可能性だってあるはずだよ」

昇だってそんな風には思っていないのに、美憂にはそう言わざるを得なかった。あの二人は確実に即死状態だった。一瞬しか見ていないが、素人の昇にもそんなことはわかる。

「何故あんなひどいことをしたの。あんなひどいことが何故できるの?」

昇は黙っていた。そんなことは誰にだってきちんと答えることができないんだ。あの男にだって。と、昇は思う。それは、今の社会が何故このようになったのかを特定出来ないのと同じように。二人は星空と地面を交互に見ながらしばらく黙って歩いた。昇がコートの左ポケットに手を入れると小さな箱があった。亜弥が昇に渡した箱だ。美憂が以前から欲しがっていたipodシャッフルの入った小箱の存在に気づき、ポケットから取り出した。

「すっかり忘れていたけどクリスマスプレゼント。中学生に贈るようなささやかな物で申し訳ないけど」

少し照れながら美憂に渡す。

「ありがとう。そうね、今日はクリスマスだものね。私からもプレゼントがある」

クリスマスバージョンに包装された箱を差し出す。

「ありがとう。何かな?」

「あなたが欲しがっていたレンズよ」

ipodシャッフルの何倍もするプレゼントを受け取り、昇は複雑な気持ちになった。今度は美憂が落とさないうちに、広角レンズの入った箱を大事に受け取った。今日の一日に終わりに仄かな温もりを感じて昇は少し心が落ち着いた。美優もきっとそうだと思う。昇の肩にそっと頭をもたれかけた美憂の小さな吐息を聞いて昇はそう思った。満天のクリスマスの星達は、相変わらず無関心に輝いていた。

(第四章 完)

<参考文献>

「心理用語の基礎知識」一九九二年 有斐閣ブックス

「誰でもよかった殺人が起こる理由」加納寛子 二〇〇八年 日本標準ブックレット

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コメント

予想通り、現れましたね、亜弥。(^~^*)

亜弥のようなアンドロイドが増えたら、
救われる命は増えるかもしれないけど...
それよりも理不尽な殺人が起きないような
世の中になるのが一番。
わかっているけど、それが一番難しいこと
なんですよね。

一件落着でホッとしましたが、これから
亜弥はどうなって行くんだろう?

投稿: casa blanca | 2012年5月15日 (火) 14時14分

Casablanca さん
いつも読んでいただいてありがとうございます。
最近、ひどい交通事故でたくさんの人が亡くなっています。とても胸を痛めています。


これから亜弥はどうなっていくんでしょう。
作者の僕にもきちんと分かっていないのです。無責任でスミマセン。第5章では、亜弥が突然居なくなってしまいます。良かったらまた読んでください。

投稿: モーツァルト | 2012年5月15日 (火) 23時15分

世の中、理不尽なことが多すぎです。
身近な職場でさえも、理不尽なことが少なからずあります。

この小説では亜弥の陰で一件落着となりましたが、残念ながら現実の世界では救世主と呼ばれる人たちは存在しませんからね…。

亜弥が居なくなってから、ストーリーはどんな風に展開していくのか楽しみです

投稿: くるたんパパ | 2012年5月16日 (水) 05時14分

くるたんパパさん
いつも読んでいただきありがとうございます。

>この小説では亜弥の陰で一件落着となりましたが、残念ながら現実の世界では救世主と呼ばれる人たちは存在しませんからね…。

ホントですね。せめて小説の中だけでもなんて思っています。それで、昔からヒーローものが廃れないんでしょうね。安易だとは思うのですが……think

いよいよ?第5章に入ります。まだきちんと出来ていないので、滞ることもあるかもしれませんが、良かったら、また読んで下さいね。

投稿: モーツアルト | 2012年5月16日 (水) 11時32分

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