小説 アンドロイド「AYA/2nd」第5章 連載5
昇は自分の知らないところで何か得体の知れない企みが動き出しているという漠然とした不安を抱え、余裕のない足取りで駅に向かった。
マンションの下に立ち、自分の部屋を見上げるとすでに明かりが点いていた。緊張していた昇の表情が少し緩む。それでも三階までの階段を一気に上り部屋の鍵を差し込む。亜弥はいつものように、
最近買い換えたiPod touchを聞きながらリビングで本を読んでいた。昇は小さくため息をつき表情を緩めた。
「ただいま」
「おかえり」
笑いもせず、亜弥が昇を一瞥して挨拶を返す。いつもなら昇は「あのね、こんな時は、普通ならにこっと微笑んで、おかえりって言うもんだけどな―」などと皮肉をいうのであるが、今日はそんなことはどうでも良いことだった。
オムレツとサラダの簡単な夕食を食べながら、昇は亜弥に咬んで含めるように話をした。亜弥はいつものようにキッチンのテーブルに昇と向かい合わせに座り、昇が食事するのを興味深そうに見ていた。
「この前から僕たちの周りを、普通でない人物が動いている。普通でないというのは、僕たちとあまり好ましい関係にはなりにくいという意味でね。どうやら彼らは君のことが知りたいらしい。それで、このマンションを見張っていたり、電話をかけてきたりした。いいかい、亜弥、誰が来ても絶対に出てはいけない。電話にも絶対に出るな。僕が連絡の必要な時は君のケータイに電話する。僕の着信を確認してから出るように、いいね。彼らはどんな形で君に接触してくるのかまったく想像も付かない。とにかく用心して欲しい」
「私の何が知りたいのだ」
「君のアンドロイドとしての才能だよ」
「才能? 私の?」
「そう、君には確かに才能がある。ロボット工学の詳しいことはわからないけど、君と暮らしていて、君のフィジカルな部分もメンタルな部分もとても優れていると思う。認知力も人間以上だと思うところもある。能力は計り知れないような気がする。その秘密を知りたいと思う人間が居たとしてもおかしくない。それが、お金や、ある種の地位とか名誉とかに関わるとしたら知りたいと思う人間は多いと思う」
亜弥に後片付けをまかせ、昇はリビングのソファーに座り、三日前に会った男と、その背後にある得体の知れない組織のことに思いを巡らせた。
「僕は亜弥を守ることができるだろうか。彼らは具体的に何を仕掛けてくるのだろうか」(つづく)
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コメント
昇に亜弥が守れるのかなぁ。
どっちかというと、亜弥に守られてる
と思うんだけど...(^~^*)
亜弥の冷静な頭脳を持ってすれば
怖いもの無しという気はするけど、
電源を切られたらお手上げですよね。
さてさて、どうなるのかな。
投稿: casa blanca | 2012年6月21日 (木) 00時53分
モーツァルトさん
たしかに亜弥がいれば、昇は安全という気がしますねぇ。
何故、昇のところに亜弥が送り込まれてきたか?
もしかして昇は亜弥に利用されている?
投稿: くるたんパパ | 2012年6月21日 (木) 04時59分
なんだか、昇と一緒の気持ちになって不安になりますね。
いったいどうなるんでしょう。
投稿: ブルー・ブルー | 2012年6月21日 (木) 17時40分
casa blancaさん
>どっちかというと、亜弥に守られてる
と思うんだけど
その通りですね。でも、今回は精一杯頑張るようですよ。
>電源を切られたらお手上げですよね。
そうなんですよね。いくら強い亜弥でも、強制的に電源を切られたらどうしようもないですからね。さすが、するどい
投稿: モーツアルト | 2012年6月22日 (金) 17時10分
くるたんパパさん
>何故、昇のところに亜弥が送り込まれてきたか?もしかして昇は亜弥に利用されている
あっ、そういう発想は面白いですね。別の章で使えそうですね。何だかうれしくなってきました。またヒントをお願いします<(_ _)>。
投稿: モーツアルト | 2012年6月22日 (金) 17時13分
ブルー・ブルーさん
昇といっしょに不安になっていただくと、すごく嬉しいです。
5章は既に書き終わっているのですが、どうも、都合良く行き過ぎて、今、再考している所です。
投稿: モーツアルト | 2012年6月22日 (金) 17時15分