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2012年6月 3日 (日)

小説 「3・3㎡/2」連載5

「花南さん、手をつなごう」

そう言って差し出した紗也香の手はちっちゃくて温かかった。三人で並んで歩くと、ひとつの家族のようで、花南には新鮮で、心地よいものであった。「結婚て、悪くないわね」などと、ふっと思ったりする。右側が少し欠けてしまった十七日の月が、ぽっかりと頭の上に浮かんでいた。

花南のマンションの途中に祥吾の両親の家があった。古くからある住宅地の一角で、決して新しい家ではないが、平屋建てで、玄関までの石畳のアプローチの側に、薄紫のリンドウが月明かりにぽっかりと咲いていた。目隠しの木格子を背景にしたドウダンツツジが色づき始め、マンション暮らしの花南には、心が落ち着く佇まいであった。

「紗也香を両親に預けてすぐに戻りますから、ちょっと待っていてもらえますか」

「いいえ、もう近くですから、一人で大丈夫です。ありがとうございました」

「すぐに戻りますから、送らせてください」

花南は祥吾の言葉に素直に甘えることにした。それは、花南も期待していたことに違いないのだと思う。少し色あせたモスグリーンのドアを開けて二人が家に入る。薄暗かった花南の周りが、一瞬明るくなってまた元に戻る。「おばあちゃん、こんばんは」という紗也香の明るい声がドア越しに聞こえ、後は何も聞こえなくなった。足元のリンドウが、月明かりの中で、少し不安げにゆれていた。

間もなく、ふたたびドアが開いて灯りが漏れた。数分しか経っていないのに祥吾の顔が懐かしい。

「お待たせしてすみません。行きましょうか」

道路に出ると、祥吾は、ビニール袋に入った赤いりんごを目の前にかざし、

「うちの父の田舎から送ってきたりんごです。昂林と言うんだそうです。甘くて歯ごたえが良く、美味しいですよ。よかったら食べてください」

「ありがとうございます。私、りんごが大好きなんです。それも、固めのシャキシャキっとしたリンゴが……」(つづく)

※短いし、あまり、ストーリーに展開がなくてすいません。

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コメント

>ストーリーに展開がなくてすいません。

いやぁ、そんなことはないですよ。
なんかときめいていた若い頃を思い出しました。

いまこんな感情はまったくないですからね…。

投稿: くるたんパパ | 2012年6月 4日 (月) 05時16分

小説なら、もうちょっと先までと
読み進めることができるけど、
まだかまだかと待つ所は、
連載小説だからこその醍醐味、
そこが楽しいのですから~

ミステリー好きです。
あれやこれや推理して、
それが当たった時は、
密かにほくそ笑んだりなどして...(^~^*)

投稿: casa blanca | 2012年6月 4日 (月) 07時42分

みかんの里、
生まれも育ちも愛媛なのに
林檎が好きな私です。
花南に親近感が湧きました。(*^ ^* )V

投稿: casa blanca | 2012年6月 4日 (月) 07時44分

くるたんパパさん
いつも読んでいただいてありがとうございます。
そうですね。現実の世界ではときめくなんて無いですね。
でも、具体的にどうするとかじゃなくて、ときめくってすごい良いことですよね。そんなことはなかなか無いのですが

投稿: モーツアルト | 2012年6月 4日 (月) 22時33分

casa blancaさん
いつも読んでいただいてありがとうございます。

>連載小説だからこその醍醐味、
そこが楽しいのですから~

ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいです。短編なので、小出しにしています。これに懲りずによろしくお願いします。

投稿: モーツアルト | 2012年6月 4日 (月) 22時36分

casa blancaさん

りんごが好きなんですね。愛媛育ちの方ってりんご好きは珍しいのかもしれませんね。みかんもリンゴも美味しいですよね

投稿: モーツアルト | 2012年6月 4日 (月) 22時39分

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