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2012年7月25日 (水)

小説 アンドロイド「AYA/2nd」第5章 連載15

ジェミノイドがそれを踏んだ。レンズの外れた銀色のメタルフレームが異様な形に歪んでいた。真崎は胸を押さえながら床に座り込んでいる。完全に戦意を失っているように見える。昇の怒りは考えられない力を与えてくれたようだ。

「君の足のタオルを取ってくれ」

ジェミノイドが右足のタオルを外し、昇に手渡す。昇は、真崎を後ろ手にしてタオルで縛る。さらに、近くのコンセントに差し込まれていた延長コードを抜いて、真崎の足を縛り上げた。

「この人には少し眠っていて貰おう。せっかく持ってきた薬だから使わないともったいないよね」

そう言って、錠剤を真崎の口に入れ、コップの水を流し込んだ。抵抗する気力も無くなったようで、あっさり飲み込んだ。昇は真崎の両方の脇の下に手を差し込んで、そのまま隣の部屋に引きずっていった。ジェミノイドが再び亜弥の側に立ち、起動を試みる。

「何とかなりそうか?」

戻ってきた昇が訊ねる。

「かなり電圧の高い、強力な電気を一瞬流して強制的にシャットダウンしたようだね。復帰はなかなか難しそうだ。周波数を変えながら、弱い電流と、信号を送り、亜弥の反応を見るしかない」

ジェミノイドは、まるで指圧でもするように亜弥の体のあちこちに指をあて、反応を見ているようであった。昇は腕時計を見て、残りの時間を確認するだけで他に為す術もない。それでも、

「僕にやれることはないか?」と、訊いてしまう。

「今は何も無い。それよりも、他に誰かが入ってくかもしれない。入り口をよく見ておいてくれ」

ジェミノイド自身の言葉なのか、三宅の言葉なのかわからないが、もうどちらでも良い。とにかく、何とか亜弥を起動させて欲しいと願いながらドアの側で見張りをすることにした。

腕時計のディスプレイは午後一時を表示していた。ジェミノイドは同じ作業を続けている。しかし、よく見ると、ジェミノイドの指先が触れた人肌ゲル[i]がうっすらとオレンジ色に変わり、また元に戻る。ジェミノイドの指が当たった部分にカリフォルニアポピーの小さな花がつぎ次に咲き、咲いたとたんに消えてしまうような不思議な光景だった。またそれは、指先を通してジェミノイドが話をし、亜弥がそれに答えているかのようにも見える。かなりの時間、ジェミノイドと亜弥の言葉の無い会話が続いた。

後三十分

亜弥の体のオレンジの小さな明かりが、やがて黄色に変わり、肌色のもっと小さな点滅に変わり、全身が光を帯びてうっすらと輝いた。昇は目が離せなかった。ジェミノイドの指はもう何にも触れていない。

やがて、亜弥の体の光が、指先から順番にゆっくりと消えていき、最後は心臓に全ての光が飲み込まれるように静かに消えた。部屋の明かりが元に戻る。ジェミノイドの指が、再び亜弥の額に触れる。同時に、透明に近かった亜弥の肌が、本来の色彩と温度を取り戻したように、活き活きとした温もりに包まれた。

「起動したのか?」昇がおそるおそる訊ねる。

「ああ。後は、自動的にローカルエリアにつながったはずだ。これからネットワークを通して亜弥の頭脳に進入する。ハッキングだ。プログラムを修復する必要がある」

これは、スーパーコンピュータの端末の前に居る三宅の言葉なのだろうと昇は思った。ディスプレイを睨みながら、キーボードの上を激しく動く三宅の指先を想像した。

「ダメだ。もう一つのキーがわからない。解析できない」

三宅の叫び声がジェミノイドを通して聞こえてきた。

「パスワードが解析出来なかったのか?」

「いや、パスワードは解った。でも、もう一つのパスが通らない。それは数列や文字列ではないようだ。何と言うか、例えば、自然の音や、音楽のような……そんなものだと思う。木村は何か心当たりがないか」

「自然の音……、音楽……」

昇はポケットに手を突っ込んで考えた。ポケットの中で手に触れた物を無意識に掴んだ。亜弥のiPodだ。

「iPod……音楽……そうだ!」

昇はiPodの電源を入れ、亜弥が最後に再生したログを調べる。「復活だ。マーラーの復活だ。バーンスタイン、ニューヨークフィル」

昇が叫んだ。

「マーラーの復活か、よし、それを亜弥に聞かせてくれ、すぐに頼む」

三宅も興奮していた。昇は亜弥の耳にイヤホンを突っ込み、再生アイコンにタッチした。亜弥のイヤホンから音楽ともノイズともとれる音が漏れ聞こえてきた。

「行けたぞ。成功だ」

三宅の弾んだ声が聞こえ、すぐに何も聞こえなくなった。(つづく)


[i] 人間の肌にそっくりの素材

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コメント

マーラー、バーンスタイン、ニューヨークフィルが登場するあたり、さすがモーツァルトさんですね。

亜弥の無事に起動すればいいのですが…。

投稿: くるたんパパ | 2012年7月26日 (木) 05時37分

iPodの電源を入れ、亜弥に聴かせる
あたりは、今の時代ならではの発想
ですね。

マーラー、バーンスタイン、ニューヨークフィル、これはモーツアルトさんならでは
でしょうか?(^~^*)

三宅の弾んだ声が聞こえたと思ったら
すぐに何も聞こえなくなったって、
もしや、誰かに殴られて気絶?
真崎は眠ってる筈だし...


投稿: casa blanca | 2012年7月26日 (木) 13時00分

最後の最後で、また何かあったみたいですね。

投稿: ブルー・ブルー | 2012年7月26日 (木) 17時27分

くるたんパパさん
マーラーの「復活」。偶然思いついたのですが、亜弥の「復活」とかぶせたところがミソです。マーラーの「復活」の歌詞はなかなか奥深いものがあります。
くるたんパパさんらしい目の付け所ですねhappy01
ありがとうございます。

投稿: モーツアルト | 2012年7月26日 (木) 22時32分

casa blancaさん

>もしや、誰かに殴られて気絶?
真崎は眠ってる筈だし...

casa blancaさんの発想は本当に面白いです。次に続くストーリーが浮かんでくるようです。僕は、早くこの第五章を終わりにしたいと思って都合の良い展開に走りすぎたと反省しています。
でも、まだ続きますので、良かったら読んで下さいね。

投稿: モーツアルト | 2012年7月26日 (木) 22時44分

ブルー・ブルーさん
まだ、最後がありますよhappy01
よかったら続きを読んで下さいね。
ありがとうございます。

投稿: モーツアルト | 2012年7月26日 (木) 22時46分

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