小説 アンドロイド「AYA/2nd」第5章 最終回
「昇、押さえて!」
亜弥の声にすばやく反応して昇は男の背中に馬乗りになり、頭を押さえた。亜弥がジーンズのベルトを外し、男を後ろ手に縛る。男から降りた昇は、工作台の下から拳銃を拾うと、それを構えながら男の脇腹に一発蹴りをいれた。
「お返しだよ」
男がうっと呻いた。扉が開いて三宅が駆け込んできた。右手に金属バット、左手に大きめのプラスチックのちり取りを持っていた。ちり取りを盾にして戦うつもりらしい。
「間に合わなかったな」
「僕のジェミノイドが予想以上の活躍をしてくれてうれしいよ。これは学会で発表できる。それに、君たちも無事で良かった。真崎はともかく、あの男は産業マフィアだよ。危ないことでも何でもする。アンドロイドの開発には多くの企業がしのぎを削っている。近い将来のことを考えると大きな金づるになる。真崎を通して情報を得ようとしていたのかもしれない。しかし、大学にまで絡んでくるとは思ってもいなかった。本当に無事で良かったよ。真崎は部屋から逃げたらしいけど、もう大学には戻れない。これ以上変なことはしないといいんだけど」
「まずは、僕たちの無事を一番に喜ぶべきだと思うけどな。まあ、しかしそれは本当だ。君にも、君のジェミノイドにも随分助けて貰った。感謝しているよ。僕だけではどうしようもなかった」
三宅の研究室に四人が座っている。
「昇、どうして私を助けてくれたの?もしかしたら死ぬかも知れなかったのに。私には理解できない」
「もちろん僕にもわからない。でも、そうせざるを得なかった。それで良いんだよ。人間の感情を解析するのはとても面倒だ」
「ふうーん」
亜弥は、特に関心があったわけではないかのように軽く頷いて、それから昇をゆっくり見て微笑んだ。初めて見る亜弥の仕草に昇は少し戸惑い、窓から見える二月の乾いた空を見上げ、ゴホンと小さな咳払いをした。
第五章 完
※参考文献
「ロボットの新世紀」シリル・フィエヴェ著、本多力訳 白水社 二〇〇三年
「どうすれば『人』を創れるか」石黒浩 新潮社 二〇一一年
「ロボットと人工知能」三浦宏文 岩波書店 二〇〇二年
「ロボットの文化誌」馬場伸彦 編 森話社 二〇〇四年
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コメント
>亜弥は、特に関心があったわけではないかのように軽く頷いて、それから昇をゆっくり見て微笑んだ。
亜弥が少しずつ人間らしくなってきたようですね。
こんな女性がいたら、僕は惹かれてしまうかも…。
投稿: くるたんパパ | 2012年8月 3日 (金) 05時11分
>初めて見る亜弥の仕草に昇は少し戸惑い
アンドロイドだから感情は持たない
そう思っているからこそ、今までにない
仕草にドキッとし、嬉しいんでしょうね。
アンドロイドも進化をするのかな?
良い方に進化するのは大歓迎ですね。
ハッピーエンドで良かったぁ。(*^ ^* )V
金属でできたロボットと違って、
皮膚感が人間とそっくりで、会話も
成立するなら、惹かれるなんてことも
ありでしょうねぇ。
投稿: casa blanca | 2012年8月 3日 (金) 18時20分
ハッピーエンドもよかったけれど、私は三宅が「間に合わなかったな」と言ったところで、思わず「ぷっ」と笑ってしまいました。
投稿: ブルー・ブルー | 2012年8月 3日 (金) 22時47分
くるたんパパさん
>こんな女性がいたら、僕は惹かれてしまうかも…。
僕もちょっと惹かれながらここを書きました。
何だかうれしいです。ありがとうございました。
次作は何にしようかな?と、今考えています。
良かったら次作も読んでいただけたらうれしいです。
投稿: モーツアルト | 2012年8月 3日 (金) 23時33分
casa blancaさん
>成立するなら、惹かれるなんてことも
ありでしょうねぇ。
昇には恋人がいるので、亜弥とはどうなったら良いんだろうって悩んでいます
。亜弥が昇に対してどういう感情を抱いていくのかがポイントですね。次章はまだ、まったく考えていないのですが、しばらく続けられたら良いと思っています。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
次作もよろしくお願いします。
投稿: モーツアルト | 2012年8月 3日 (金) 23時37分
ブルー・ブルーさん
>私は三宅が「間に合わなかったな」と言ったところで、思わず「ぷっ」と笑ってしまいました。
笑っていただけてホントにうれしいです
ちょっと受け狙いで書きました。
ブルー・ブルーさんも、くるたんパパさんも、casa blancaさんも、僕が気に留めて欲しいとか、受けて欲しいとか思って書いたところに反応していただいてすごくうれしいです。もう、それだけで満足しています。
とはいえ、もう少し精進して、楽しんでいただける作品を目指して頑張ります。これからもよろしくお願いします。
投稿: モーツアルト | 2012年8月 3日 (金) 23時48分