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2013年1月

2013年1月31日 (木)

小説「take it easy」 ~その8~

バンドの練習は加藤君の家でやった。加藤君の家は僕の家の何倍もの大きさだった。門から玄関まで結構歩かないといけない。門と玄関の間には大きなユリノキがあった。若葉マークのような大きな葉っぱが夏の光の中で輝いている。キラキラ光るユリノキの葉の間に、五月に咲くはずのたくさんの白い大きな花が見えたような気がした。

加藤君の部屋は「離れ」のようになっていて、家の玄関から入らなくとも直接部屋に入ることが出来る。加藤君の部屋も、僕の部屋の五個分はあると思う。部屋というよりも一軒の平屋の家という方が正確かもしれない。

「この部屋は元々は父の部屋だったんだ。この家は父の実家で、正確には僕の家じゃないんだ。祖父母の家なんだ。両親は、今アメリカに住んでいる」

「ふーん、そうなんだ」

人にはいろいろと事情がある。加藤君には加藤君の事情がある。僕はあまり立ち入って詮索しない方が良いと思った。結城さんも同じ思いなのか、黙って聞いていた。

とりあえず僕たちはスタジオ作りの準備をした。僕のギターを買った楽器店から中古のアンプを買って、無理を言って運んでもらった。無理を言ったついでに、結城さんの家からエレピアノも運んでもらった。

バンドの練習はなかなかうまく行っている。ベースは初めてだと言っていた加藤君は、やっぱりすぐに弾けるようになったし、結城さんのエレピもなかなかのものだ。僕はそれについていくのに必死だったけど、とにかくよく練習した。父親が選んでくれたギターはとても良い音がした。ギターのことはよく分からないけど、綺麗な音はよく分かる。バランスの取れた澄んだ音はきっとこのギター特有のものだと思う。弦を弾くと、ボディーを通して微かな震えが僕のお腹に伝わってくる。僕はその震えを体全体で吸収し、味わい尽くす。鼓膜が捉えた心地よい振動は脳を刺激し、アドレナリンが体中を駆けめぐる。

僕は気持良くギターを弾く。GのコードとGが乗っかったCやAm7のコードがバランスの良い響きで進行するイントロ。加藤君が歌い出す。適度なピアニシモと適度なフォルテ。滑らかに流れる歌声に僕はうっとりする。時々重なる結城さんの歌声は加藤君の歌声と三度の間隔でハモりながら穏やかに調和する。それはまるで二色の風がぴったり並んで澄み切った空を流れていくようだった。二色の風は、僕のギターの和音と混じり合って、キラキラ光るユリノキの葉を通り抜け、やがて夏の空に吸い込まれる。僕はもう一人ではない。例え物理的に一人になったとしても、以前の一人ではない。ギターのストロークを一つ刻むたびに僕の心は解放される。ギターとベースとピアノと僕たちは一つになる。まるでウェスト・コーストを吹き抜ける夏の風のように。そして、最後のEm(イーマイナー)で突然風が弾ける。

We ought to take it easy.

(完)

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2013年1月29日 (火)

このノートは?(2)

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ん?見たことあるタイトルだし、見たことある写真だぞ。

そう思われた方、正解です(^^;)。

1月22日のコラムのタイトルと写真です。

でも、今回は中味が違うんですよ。レシピでもないし、MINIの整備手帖でもありません。

実は、これなんです。

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(※わざとぼかして撮っています)

わかりにくくてすみません。実は読書ノートです。読書ノートというと大袈裟かもしれません。「読書メモ」かな?

小説の時はあまり使わないのですが、新書などを読んでいる時に気になった箇所をメモします。最近、読んだ後「あれ?あれ何だったけな?」などと思うことがたびたびで、一年ほど前からこのノートを作っています。フレーズは覚えていても、どの本に書いていたかを忘れたりすることも多く、メモは重宝します。結構便利なノートです。

読んだ本が全部頭の中に入っているといいと思う反面、忘れるからいいのかな?なんて思ったりもします(負け惜しみです)。

「長期的に安定した記憶は、複雑な印象の絡み合いから起こる」または「様々な新鮮な体験の組み合わせによって起こる」と何かの本に書いてありました。

やはり僕のような凡人は、読むという行為だけでは長期的に安定した記憶にはならないようです。書くことで、多少は記憶の片隅に置かれるといいのですが……。

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2013年1月28日 (月)

読書三昧の二日間

「インフルエンザの薬を飲んだら、治ったわけではないけど三日位で大部楽になりますよ」

と、医者から言われたのですが、その通りでした。四日目の今日は結構楽になりました。幸いなことに、薬の副作用も無かったようです。

といっても、完治するのに一週間はかかるそうで、まだまだ外をウロウロするわけには行きません(しんどくて出来ませんが(^^;))。

1日目は高熱でひたすら寝ているだけでしたが、二日目からは少しずつ熱が下がってきたので、布団に入って、図書館や友人から借りていた本を読みました。

二日間で読んだ本です。

「ラットマン」道尾秀介、「ゴールデンスランバー」伊坂幸太郎、「白馬山荘殺人事件」東野圭吾

それぞれが長編なので結構読み応えがありました。こんなにまとめて小説を読んだのは初めてです。どれも面白かったのですが、やはり道尾秀介さんと伊坂幸太郎さんの作品が面白かったですね。やっぱり好きだなーって、改めて思いました。描写や、表現の仕方など、「うーん、これは良い」と思うところがたくさんあり、良い勉強になりました。

例えば、「ラットマン」のヒロイン、ひかりという女性が自分たち姉妹を捨てて居なくなった父親と再会した後の描写。ドラマーで奔放な生活をしていたけど、崩れた魅力のある父親が、再婚してすっかり普通の中年男になっていた。

「ひかりの腹の底で、無数の罵倒と蔑みが瞬間的に生まれた。つぎつぎと外に向かって噴き出そうとした。しかし、それらはのど元へと辿り着く前に、胸を埋め尽くす大きな「空っぽ」にことごとく吸い込まれ、消えていった。そして、そこに残ったのは、やはり空っぽだけだった」

ラットマン

(※amazon.co.jpより)

無駄な二日間では無かったようです。

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2013年1月27日 (日)

小説「take it easy」 ~その7~

結局、バンドをやらないという方向にはまったく進まず、結城さんはピアノ、加藤君はベース、僕はギターということに決まった。ドラムスは無いけど、まあ、いいや、ということになり、僕らは準備を始めた。ギターを買うことには何の問題もない。僕は普段ほとんどお金を使わない。任天堂やソニーのゲームソフトも必要ないし、着るものは母親が買ってきてくれる。音楽はラジオで聞く。時々父親のCDを借りて聞くこともあるが、自分で買うことは無い。だから、銀行の僕の口座にはギターを買うくらいのお金は十分にある。昔ギターをやっていたという父親に相談して決めようと思った。

「おまえがギターをやるのか? 何か勉強にでも使うのか?」

父親は意味の分からない質問をしたが、僕は無視した。父親はそれでも、何だかうれしそうで、いっしょに楽器屋に行って選んでくれる約束をした。ソファーに座って、父親が読んでいた夕刊を手に取り後ろからページをめくる。普通の高校生は新聞なんて読まないらしいけど、僕は新聞が結構好きだ。関わりたくないけど、世の中にどんなことが起きているのか知るのは嫌いじゃない。少なくとも、友達やタレントの噂話よりはずっとましだと思う。

後ろからページを一枚めくると交通事故のニュースが出ていた。若い男が二人、オートバイで事故を起こして重体だそうだ。二人の男の顔写真と事故を起こした場所の写真が出ていた。そして、目撃者の話が載っていた。<オートバイに二人乗りしていて、結構なスピードを出して走っていたようだ。変な蛇行運転で、そのまま神社の側の、数メートル下を流れる川に突っ込んで行った。酔っぱらい運転でもしていたのだろうか?>

しかし、警察の調べでは酒は飲んでいなかったらしい。薬物の可能性もあるとのコメントがついていた。

あの神社だ。若い男二人は、あの時の男達だ。新聞の顔写真は少しわかりにくかったけど、僕は顔の特徴を覚えるのが得意だ。間違いはない。僕は加藤君にすぐに電話をした。

「僕も見たよ。君の言う通りあの男達だ。ネットで調べてみたら、あいつらは、いろいろと悪いことをしていたようだ。窃盗、傷害。一番多かったのは婦女暴行だそうだ。ほとんどの被害者が告訴しないのを良いことに、次々と犯行を犯していたらしい。悪党だ。死ねば良いんだ」

加藤君はとても冷静にそう言った。受話器を持った童顔の加藤君の顔を思い浮かべたが、電話の響きとその顔はなかなか一致しなかった。

「立川君、弁神論って知ってる? 」

加藤君が突然質問した。

「ベンシンロン?」

「もし、ライプニッツの弁神論が正しいとすれば……あの男達は、神の何らかの意志で生かされてきた。そして、今回、また、神の何らかの意志で抹消された。すべては神の摂理だよ」

僕は加藤君の言っていることがよくわからなかった。電話を切った後

「吹き矢かもしれないな」と、何の脈絡も無く思った。そして、吹き矢を構えながら、強い眼差しで二人の男を見つめる結城さんの姿が浮かんだ。アイボリーのチノパンに、<No Nukes One Love Good Music>というロゴの入った白いTシャツを着ている。毒薬はクラーレかな、ストリキニーネかな?

「それはないよね。でも、そうだったら……」

その想像はとてもステキだと思った。

吹き矢の役割が終わり、彼女は何か新しいことを始めようと思ったのかも知れない。そして、バンドも僕らにはとてもふさわしく思えた。(つづく)

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2013年1月25日 (金)

インフルエンザA型

ついにインフルエンザに罹ってしまいました。

生まれて初めての経験です。経験しない方がいいのですが……。

昨日、何だか調子悪いなーと思っていたのですが、夜中から熱が出て一晩中うなされていました。筋肉や関節も痛みました。

朝一番、近くの内科医で診察を受けると、「たぶんインフルエンザでしょう。検査をしてみます」ということで、

鼻に検査用の綿棒のようなものを入れられ待つこと10分。

「やはり、インフルエンザですね。A型です。インフルエンザ用の薬は要りますか?」

副作用とかの関係で、要らない人もいるのでしょうが、僕は貰いました。「イナビル」という吸入剤です。二個吸入します。

インフルエンザ用はそれだけで、早い人で翌日には体が楽になるそうです。僕もそうなるといいのですが……。

病院から帰ってきてからずーっと寝ていたので少し楽になりました。温かいおうどんをいただいてちょっと元気になりましたが、体はまだまだしんどいです。

外には出られないので、よその人にうつすことはないのですが、家族にうつらないか心配です。ずーっと自室に閉じこもっていた方がいいのかもしれません。

順調にいけば3、4日位で良くなるそうですが、ホントにそうなることを祈っています。明日から福岡に行く予定だったのですが、延期になってしまいました。

みなさんも十分お気を付けて下さい。

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2013年1月24日 (木)

学食メニュー 神戸ぼっかけ丼

またまた学食関連ですみません。個人的に結構リクエストがあるものですから……。

学食では、期間限定で、ルーティン・メニューとは違うメニューが出ます。前に紹介した「富山の黒ラーメン」とか、「仙台みそラーメン」や、クリスマスの「煮込みハンバーグ」などもそうです。

今回は、神戸の「ぼっかけ丼」です。

「ぼっかけ」ってなに?と思われる方もいると思います。「ぼっかけ」とは、

牛すじとコンニャクを甘辛く煮たものをうどんやラーメン、カレーなどにトッピングしたものです。神戸の名物だそうです。

今回はそれをご飯にかけて、丼にしたものですね。

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サラダバーでポテトサラダとブロッコリ、ミニトマト、肉団子もいただきました。

普通、ご飯や、丼物はSサイズをもらうのですが、今回はMのみということだったので、少し多めになってしまいました。

肝心の味はどうかと言えば、甘辛いタレに半熟玉子がほどよく絡んで、とても美味しかったです。このタレと半熟玉子だけでご飯が食べれそうです。

牛スジも柔らかく煮込んであり、なかなかのものでした。

学生は試験期間直前のせいか、食堂はいつもより混雑していて、空いた席を見つけるのが大変でした。

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2013年1月22日 (火)

このノートは?

このノートには何が書かれていると思いますか?

IMGP1049

車の整備記録?いや、違います。日記?違います。

実はこれなんです。

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そうなんです。料理のレシピ集なのです。

4、50種類位のレシピが書いてあります。すべて手書きです。

テレビや、ラジオや新聞などで、これは美味しそうだなと思ったレシピをメモしておいたものをノートにまとめました。

注意事項なども結構細かく書いています。これがあれば、献立で悩むことはあまりないと思います。

ただ、一つだけ問題があります。

それは、ここに書かれているレシピで、まだ一度も実際に料理を作ったことがないということです。ですから、出来上がった料理の写真も、味はどうだったかのログもありません。

残念ながら、これは、料理レシピとしては、決定的に欠陥品ですね。

僕は、たいがいのことはいい加減なのですが、こういうことは結構几帳面なので、メモしたものをきちんとまとめておかないと気持ち悪いのです。ただ、日常生活にまったく役に立っていないので無意味なノートの一つです(>_<)。

1度挑戦してみようとは思うのですが……。

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2013年1月20日 (日)

寒い夜はウォーキング

朝9時頃に、うちの奥さんと近くのベーカリーで「モーニング」を食べて、その足でジムに行きました。

しっかり筋トレをして、仕上げに30分ほど泳いで、近くの楽器屋さんでギターの弦を買って、お昼過ぎに帰ってきました。

汗を流した後は、当然のようにビールを飲んで、そのままバタンとお昼寝。

1時間ほどお昼寝をして、夕方まで仕事をしていたのですが、ずーっとデスクワークで体がだるく、思い立って近くの公園にウォーキングに出かけました。

冷たい風の中、誰もいない公園をひたすら歩きます。だるかった、よどんだ疲れが少しずつ解消されていくようで、体の細胞が少しずつ生き返ってきます。

誰もいない夜の公園をsonyのウォークマンを聴きながらひたすら歩くこと1時間。

今日は曇り空で、話しかけたい星たちも見えないので、ただ、ただ歩きます。

それにしても寒い!!

でも、寒い夜のウォーキングは体中の細胞が引き締まって、夜のビールがとても美味しくなります。

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2013年1月19日 (土)

pumaとMINIのコラボ

うちの奥さんがアウトレットの店に行って、ついでにこんな靴を買ってきてくれました。

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pumaとMINIとのコラボのデザートブーツです。スウェードのデザートブーツが欲しいと思っていたので、以心伝心なのかなって不思議な思いがしました。

いずれにしてもうれしいことでした。

学生の頃にハッシュパピーのスウェードのデザートブーツを持っていました。すごく気に入っていたのです。ところが、ある日、大学の寮の友人を訪ねて、帰りには靴が無くなっていてすごく腹が立ったことがありました。何でそんなことが起こるんだろうという理不尽さに愕然としたものです。それ以来スウェードのデザートブーツは履いていませんでした。

それが今度の出会い?で、大げさですが、あの時の思いが払拭されたような気がします。

写真に靴紐にじゃれついているジジが写っていました。

久しぶりの新しい靴で街を歩くと、寒い日でも、ちょっと心も軽く、いくらでも歩けそうな気がしますね。

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2013年1月18日 (金)

しまったぁ〜

ブログの更新を忘れていました(>_<)

くるたんパパさんの真似をしてしまいました。

大阪は今日は雪でした。といっても積もるほどではないのですが、時々風に乗って吹雪いていました。

スタッドレスに履き替えたMINIが威力を発揮するかと思ったりしたのですが、今回も発揮できませんでした。

それは、それで良いことです。大半の人はスタッドレスになんか替えていませんからね。

ホワイトクリスマスMINI_リア

(イメージです)

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2013年1月16日 (水)

小説「take it easy」 ~その6~

八月に入って間もない頃、彼女から電話があった。

「私です。結城みどりです……」

少し沈黙があって

「あの時はどうもありがとう。今日はあなたが言っていた吹き矢がしたいと思って電話したの。あの話はまだ有効なの?」

「も、もちろん有効さ。あっ、元気にしてる?」

「うん、元気よ……でも……。私、吹き矢を練習することにしたの。それに、あなたたちにきちんとお礼も言ってないし」

「お礼なんて、僕は何にもしてないし、加藤君が君を助けたんだ。まあ、それはそうと、今度の土曜日はどう?」

「私は大丈夫。どこに行けばいいの?」

土曜日の時間と場所を伝え、電話を切った。そして、彼女の番号を登録する。彼女の声は少し明るくなっていた。でも、それまでのことを考えると、心臓のあたりが少し痛くなる。加藤君に電話して彼女も来ることを伝える。

「良かったね。彼女の吹き矢を用意しておくよ。君は彼女が好きなんだね」

加藤君はそう言って電話の向こうで少し笑った。

「いや、そんなことはないよ。でも、何だか気になるんだ」

加藤君の言う意味で好きなわけではないが、とても気になる。子猫がカラスに襲われそうになったら誰だって助けるだろうし、守ってあげたいと思うはずだ。それが出来るがどうかは別にして……。

僕らは、それからたびたび三人で吹き矢をした。吹き矢はシンプルだけど、とても魅力的だった。僕よりも後に始めた結城さんは、僕よりも得点が高くなった。きっと彼女の中にあるいろんな思いが季節外れのレモンのように膨らんで矢を押し出すんだ。そして、それは確実に的の真ん中に近づくに違いない。

結城さんは僕らと同じ高校一年生だった。高校は違うけど同じ町の中にある。僕も加藤君もあの時のことにはまったく触れていない。成り行き上、聞いておいた方が良いのかもしれないけど、出来なかった。彼女だってきっと思い出したくもないに違いない。

「ねえ、吹き矢って人を殺すことも出来るの?」

結城さんはとても真剣な顔でそう聞いてから、すぐに笑顔を作った。しかし、笑うと出来る小さなえくぼと、眉毛まで垂れる清潔に梳かれた前髪を持つその笑顔は、どう考えてもわざとらしかった。

「うん、出来るよ。アメリカ先住民族が使っていたクラーレという毒薬は呼吸器系を麻痺させてしまうし、東インドの未開民族の使う毒薬はストリキニーネだ。これは、すぐに効果は出ないけど、三十分位経つと、痙攣を起こし、呼吸麻痺で死ぬ場合もある。後、殺すわけではないけど、南米や東南アジアの狩猟民族は様々な毒薬を使って狩りをする。その場合、大半は狩猟が目的なので、一時的に麻痺させればいいわけで毒薬は体に残らない。これってすごいよね。吹き矢だから気配も感じさせないし、相手の体に毒も残らない」

加藤君は新しい発見に興奮したかのように、少し上気した顔で言った。

「ふうーん……」

結城さんは、あまり感心が無さそうに頷いていたけど、澄んだ大きな目は真剣だった。

ある日、いつものように吹き矢の練習が終わった後に、結城さんから提案があった。

「ねえ、私たちバンドをやらない? イーグルスのような古い曲をやりたいの。西海岸の風ような、海の匂いがする曲をやりたい」

結城さんの突然の提案に、僕も、加藤君もちょっと戸惑った。

「バンド? って、あのバンドだよね。ギターとか、ドラムスとかの、あれだよね?」

僕の質問はかなり間の抜けた質問だったかもしれない。でも、それぐらい結城さんの提案は唐突だった。

「面白いね。僕は賛成だ。立川君はどうだい?」

加藤君は、「帰りにマクドにでも寄らない?」という提案に賛成するかのように気軽に答えた。

「イーグルスは良いかもしれないけど、僕は楽器なんてやったことがない。今すぐは無理だと思う」

僕は加藤君のように何でもすぐに出来るタイプではないし、それなりに努力が要る。こつこつと練習することはまったく苦痛じゃないし、何の問題もない。ただ、初めてのことは結構心の準備が必要だ。

「そうね。すぐには無理よね。準備期間が必要ね。役割を決めて準備しましょう。そうね、私は何をしょうかな?」

僕の戸惑いなどまったく考慮すべきことではないかのように、彼女の頭の中ではもう、すべてが進行し始めていたようだ。そして、僕もつられて、何が出来るだろうなどと考え始めていた。(つづく)

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2013年1月15日 (火)

あれ?確かここは……?

仕事の帰りに心斎橋の大丸というデパートに寄りました。

買い物を済ませて、トイレに寄って行こうなんて思って。入り口で男性用をしっかり確認し、中に入ろうとしたら、「エッ!!!!」

思わずトイレから出てしまいました。そして、もう一度「男性用」だと確認して中へ。

洗面台の前にはやっぱり長い髪のミニスカートの女性が居ました。

後ろ姿だけで顔はよく見えなかったのですが、美人っぽい(後ろ姿だけですが、個人的な思いです)女性なのです。

しかし、絶対に男性用だと確信したので、自信を持って、堂々とトイレに入りました。用を済ませて洗面台に向かったときはもう、女性の姿はありませんでした。

「ニューハーフ(死語ですか?)だったのかな?」

それにしても、髪のきれいな、スタイルの良い女性(?)でした。

usirosugata

(※イメージです)

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2013年1月14日 (月)

小説「take it easy」 ~その5~

三人は、町の方に向かって住宅街を黙って歩いた。白い家の庭に、散りかけたクチナシが今にも落ちそうに枝にぶら下がっていた。あんなに白く清楚に咲いていた花びらは憂鬱気に少し黄ばんでいた。

「加藤君、さっきのあの矢は何か特別なの? 毒か何か塗ってあるみたいだった」

さっきの出来事には出来るだけ触れないようにと思いながらも、つい口に出てしまった。

「うん。あれは特殊な矢なんだ。ケニアのパパル族が狩猟に使う矢だ。ライオン位の獣を一時的に麻痺させるために使う。麻酔銃のようなものかな? 護身用だよ」

「ゴシンヨウ?……」

なぜ、護身用に持ち歩く必要があるのか不思議に思ったけど、人にはそれぞれの事情があるのかもしれない。僕が護身用に拳銃を持つよりは日常的なのだろう。そんな薬や特殊な矢をどこで手に入れるのかとか、聞きたかったけど、その話はそこで終わりにした。

「もう、ここで良い。ありがとう。私は結城みどり。高校生。また会うかもしれないね」

そう言うと、彼女は、もう振り向きもせず、大きなストライドで歩いて行った。肩までの髪が大きなストライドに合わせてふわっ、ふわっと揺れていた。大股で歩く後ろ姿は泣いていた。僕は彼女の後を追った。何かを伝えようとしたわけではなく、追いかけずにはいられなかっただけだ。

「ねえ、吹き矢をしよう。僕らと吹き矢をしようよ」

何も考えていなかったのに、僕の口が勝手にしゃべった。振り向いて僕を見た彼女はやっぱり目の縁が赤くなっていた。人差し指を目尻に当てて涙を拭いて、不思議そうに僕を見る。

「吹き矢?」

「そう、さっき加藤君があいつらをやっつけた吹き矢さ。僕らはいつも練習しているんだ」

彼女は七月の空を一度だけ見上げた後

「うん。やる」

と、言って今度は少し笑った。

「これ、僕の連絡先。もしよかったらここに連絡して」

僕は急いでカバンからノートとシャーペンを取り出し、ケータイの番号を書いて彼女に渡した。

じゃーっと言って僕は走って戻る。一度だけ振り向いたら、彼女はちょっとだけ手を挙げてくれた。

戻った僕に、加藤君は「大丈夫かな?」と、心配そうだった。

「大丈夫じゃないと思うけど、でも、最悪の状態は避けられたんだ。それだけでも良かったのかもしれないよ。僕らは誠実だった」

僕が言うと

「毒薬でも良かったかもしれないな」

「毒薬も持っているの?」

僕が目を丸くして聞くと

「持ってないよ。」

僕は、加藤君は持っていると思った。理由はわからないが、加藤君の顔は、その反対のことを言っていた。

僕らはそれからも吹き矢をした。あの秘密の練習場は何となく行きにくく、僕らは新しい練習場を探した。そして、町の反対側に同じような小さな森を見つけ、そこを新しい練習場にした。この町は東京のような大都会ではないので、そういう場所は、探すのにそれほど難しくはない。僕は前よりはずっと良い点数が取れるようになった。(つづく)

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2013年1月13日 (日)

ゲレンデは良いコンディションでした

初滑りでした。

連休初日で、結構たくさんの人が来ていました。80%位は20代の若い人で、後は家族連れや中高年という感じです。

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雪の状態は最高でした。キュッキュッと締まった、滑りやすい雪でした。

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良いお天気で、標高1174㍍の蓬莱山の山頂からは琵琶湖が一眸に見渡せます。

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と、ここまで書いて、あれ!! 去年もこんなことも書いたかなーと思ってしまいました。毎年同じ事してるんだなーって、今年もスキーに行けた喜びと、変わり映えしないなーという思いが混じった思いがしました。でも、とりあえず無事にこうしてスキーにいけたことに感謝です。

お昼はいつものステーキプレート(1200円)です。

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気になっていた足の痛みもあまり無くて、何とか無事に滑れました。スキーもスノボも「かかと」だけがハンドルと言われているように、基本、かかとしか使いません。それで、他の部分は力が入らなかったと思います。

良い初滑りになりました。感謝!!感謝!!

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2013年1月11日 (金)

準備して、明日はいよいよ

明日のスキーに備えて、メンテナンスをしました。

古いワックスを落として、新しいワックスをかけます。これが結構大変なのです。外は寒いし。

そして、これで準備が出来ました。

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明日は晴れるといいなー。ゲレンデが僕を呼んでいる、かも、しれません……。

足がまだ完治していないので、どうなるのか、少し心配です。もし、痛かったら、レストランから滑っている人を眺めていようかな、などと思っています。

ここのレストランはステーキランチが美味しいのです。値段も千円ちょっとです。楽しみだなー!!

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2013年1月10日 (木)

小説「take it easy」 ~その4~

夏休みに入って間もない頃、僕らはいつものように吹き矢の練習に行った。クチナシの花が純白の輝きを失い、無残に変色して地面で朽ちようとし、それに代わって、ムクゲの花が日差しの中で咲き誇っていた。季節は大きく移り変わろうとしていた。吹き矢を構える加藤君のこめかみから汗のツブが頬をつたい、フェンダーのロゴが入った真っ白なTシャツの襟元に吸い込まれていく。時折、森の方から涼しい風が吹き、加藤君の柔らかそうな髪をすくい上げる。僕は六メートルではなく、十メートルの線からふけるようになり、時々七点も出せるようになった。

いつもの練習が終わり、僕たちは神社の方へ戻ろうと歩き出した。誰もいないはずの森の方から女の声が聞こえた。それも、どう考えても緊迫感のある悲鳴に近い。僕たちは顔を見合わせた。そして、同時にその方角を見た。僕らは木立をそっとかき分けながら、低い姿勢で声のした方に向かって行った。加藤君の背中を見ながら、僕は心臓の激しい音を意識する。ムッとする草いきれの中で背中が汗ばむ。十メートル先の、そこだけ木立が切れて小さな草むらなっている所で人が動いていた。二十代の男が二人、女が一人。どう見ても女性が乱暴されかかっている。普通のスポーツウエアとは明らかに違うジャージの男が女性の口に布を咥えさせ両手を押さえている。女性の足は、バタバタと草を蹴る。もう一人のジーンズの男が立ってズボンをずらしかけている。ジーンズのお尻の下にわざとの破れがある。その破れから堅そうな毛が疎ら見えた。三人の真上にはソフトクリームのような真っ白な雲が浮かび、その間からまだ成熟仕切っていない太陽が三人をのんびり照らしていた。

僕たちは一瞬立ち止まって顔を見合わせた。二人が同時に唾を飲み込む。そしてその場に身を隠した。僕の心臓はさっきよりももっと激しく動き出す。喉が渇く。何度も唾を飲み込む。加藤君はカバンから吹き矢の筒を取り出し、手早く組み立てた。そして、さっきとは別のケースに入った矢をいくつか取り出し、筒に入れた。低い位置から身構えてプッと息を吐いた。一連の動きはとても素早かった。矢はズボンをずり下げた男の、黒い縮毛のあるお尻に突き刺さった。七点だ。

ウッと呻いて男が膝をついて、そのまま倒れ込む。ジャージの男が何が起こったのかよく分からず駆け寄る。ジーンズの男を抱えた右腕のハートのタトゥーの真ん中に、もう一つの矢が突き刺さる。男は顔をしかめ少し痙攣してジーンズの男の上に倒れ込む。静かだった森が急にざわめき、そこから吹いてきた強い風が女性のスカートをめくり上げた。一瞬だけ白い足が太ももまで露わになる。

「逃げろ!」

加藤君の声でスリープしていた僕の体が反応した。女性も反応した。パッと起き上がり、僕たちの方に走ってきた。

「付いてきて!」

加藤君の声を合図に、僕らは駆けだした。加藤君、女性、僕の順番で走った。夏の空に、オナガのグェーグェーという場違いな鳴き声が聞こえていた。

神社の入り口で僕らはようやく立ち止まる。三人とも同じように膝に手をついて呼吸を整えた。まだ心臓がドキドキしている。僕は荒い息をしながら、大きなアリが足元をゆっくり歩いているのを見ていた。

「ありがとう。助けてもらったのね」

ニットのボーダーのワンピースの女性は思ったより若かった。たぶん僕らと同じ位かもしれない。髪の毛は少し乱れていたが、他の所はひどい状態にはなっていなかった。普通なら泣き出しているのかもしれないけど、この子はそうしなかった。ワンピースについた草を両手で払う。まるで草原に座って本を読み終わった時に何気なくお尻のあたりの草を払うように。

「近所に住んでるの? 送っていこうか。あいつらはしばらくは動けないと思う。」

加藤君が聞いた。

「ええ。お願いして良い? やっぱり、まだ怖い」

僕は、大きく頷いた。(つづく)

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2013年1月 9日 (水)

富山ブラックラーメン

また学食コラムです。

期間限定で「富山ブラックラーメン」(399円)というメニューがありました。珍しいので食べてみることにしました。

ブラックというだけあって醤油の色が濃いのです。

(イメージです)

ラーメンを受け取って、サラダバーでサラダを取って、レジに並んで、次はサラダのドレッシングに並んで、最後にお茶の給湯器に並んで……。

ここで終わりではないのです。空いている席を探さないといけません。昼食時は混雑しているので、すぐには見つかりません。そして、空いている席を見つけてやっと座れました。

「さあ、ラーメン食べるぞ!!」

と、食べようとしたら、ラーメンはすっかり伸びていました。

昼食時の学食のラーメンは避けるべきだということがわかりました。

初めての「富山ブラックラーメン」の味はどうかといえば、伸びていましたが、美味しかったです(^^)。色が濃い割には、味は普通でした。味的に普通の醤油ラーメンと、どこが違うのかはよくわかりませんでしたが、魚介類の味が強かったような気がします。ゆで玉子と、少し大きめのチャーシューも特徴だと思います。

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2013年1月 7日 (月)

小説「take it easy」 ~その3~

加藤君は僕のために引いてくれた線よりも随分後ろに立ち、筒を構えた。複式呼吸で大きく息を吸い込む。咥えた筒が一瞬だけピクッと震えた瞬間、矢が空気を裂きながら突き進む。音は聞こえないけど僕の鼓膜が微かに震えたのを感じた。そして、矢は的の真ん中に突き刺さり、微かに震えながら止まった。止んでいた風の音がまた聞こえだした。

「七点だね」

加藤君はそれが当たり前であるかのようにごく自然に言った。僕は、まだ突き刺さったままの矢から目が離せなかった。心臓が少しドキドキして顔が熱くなった。最も原始的だと思っていた過去の武器がこんなにもクールだとは思わなかった。

「さあ、君もやってごらんよ」

加藤君の声で僕は我に返った。六メートルのラインに立って、加藤君に教えて貰いながら筒を構えた。両手の平で筒を抱え上げ、静かに降ろし吹き口を咥える。思った以上に吹き口が大きい。お腹に空気を溜めて一気にはき出す。頬が一瞬膨らみ空気を押し出す。筒が少し動いて、矢は的を大きく外してしまった。矢は、加藤君のように空気を切り裂かなかった。加藤君の注意を聞きながら何度も挑戦してみる。何回目だろうか、空気をはきだした瞬間、僕の鼓膜が矢を捉えた。そして、矢は的に当たった。一点だったが、その手応えに、僕の体中の血液が逆流した。そして、全ての毛穴が開いて、体の中で燃焼した二酸化炭素が吹き出てきた。

「やったー」

加藤君も立ち上がって喜んでくれた。

こうして、僕の吹き矢初体験は無事に済んだ。

「吹き矢って、シンプルで地味だと思っていたけど、何だかすごいね。加藤君はいつからやってるの?」

加藤君は分解した筒をカバンに入れながら

「小学生の頃からしてるよ。僕の祖父がやっていたんだ。いっしょに練習場に行って、見よう見まねでやっているうちに面白くなった。君と同じように興奮した。それからずーっとやっている。でも、友だちには黙っていた。何で吹き矢なんてやってるんだ、なんて聞かれると面倒だしね。説明するのも困ってしまう。大人だったら、肺が丈夫になって健康に良いとか、いくつも理由を見いだせるけど、小学生がそんなこと言ったらバカにされるからね。僕は健康に良いからやっているわけじゃない。小さな矢が、僕の呼吸で風を切って的に当たる。僕の小さな一呼吸が風になるんだ。ヒューってね」

そう言って、加藤君は唇をすぼめてヒューっと音を出した。僕はとても納得した。そうなんだ。僕の一息が風になるんだ。これは何てステキなことなんだろう。

僕たちは、夏までそうやって吹き矢をしたり、音楽を聞いたりして過ごした。もちろん勉強も。加藤君は意外と古い曲が好きだった。70年代のイーグルスや、80年代のビリージョエルの曲をよく聞いていた。

「<Honesty誠実、それはとても孤独な言葉だ。誰でもみんな嘘をつくもので、誠実な人なんて滅多にいない。でも君にはまず誠実であって欲しい>こんなセリフを誰かに言ってみたいものだよね。女の子に言ったら笑われちゃうよね」

なんて言いながら笑っていたけど、まんざらでもなかったのかもしれない。そして、ビリージョエルのHonestyを良く口ずさんでいた。少し猫背気味に両手をポケットに突っ込み歌を歌う加藤君は童顔にもかかわらず大人っぽく見えた。Honesty……僕は誠実だろうか?(つづく)

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2013年1月 6日 (日)

MINIの福袋

今年最後?の福袋になります。4日、5日と恒例のMINIの福袋がありました。今年は車検なので、車検のついでに福袋を買ってきました。2千円です。

こんな福袋でした。

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そうなんです。袋がカバンになっています。ご覧のように表地は黒で、裏地は赤です。裏地が緑のカバンもあったのですが、僕のMINIに合わせて黒と赤にしました。

中味はこんなんでした。

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折りたたみ傘です。

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ユニオンジャックとチェッカー模様のペン

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手前がメモクリップと右側のがメモパッドです。

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卓上カレンダー

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ランチボックス。これはミニのクリスマスプレゼントと重なってしまいました。同じ物なので友人にあげました。

中味はこれといって目新しい物はなかったのですが、かなりしっかりしたバッグと折りたたみ傘がとても気に入りました。

明日で松の内も終わりです。何だか、ちょっと淋しいような気もします。毎日よく飲んだお正月でした。明日から仕事です。みなさんお互いにがんばりましょうね。

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2013年1月 4日 (金)

take it easy その2

寒いなーと思っていたら雪が降っていました。大阪では、今年初めての雪かな?今年って言ってもまだ4日目ですが……。

ということで、小説の連載その2です。

 

「take it easy」

とても良いことを思いついたように加藤君が突然言った。

「吹き矢って、この吹き矢だよね」

僕はパーカーのポケットに入れていたペンを出して口に咥える真似をした。

「そう、その吹き矢。立川君はしたことがある?」

「僕はしたことがないけど、テレビで、南米の何とかと言う部族の人が長い吹き矢で狩りをしているのを見たことがある。君がしている吹き矢ってそういう感じなの?」

僕は、ボールペンを伸縮自在の筒のように長―く伸ばす格好をして加藤君に聞いた。そして、加藤君が、その端正な顔で長―い筒を咥えて真剣に吹き矢をしている姿を想像して少し愉快になった。

「そうだよ。120センチメートル位の長い筒で、矢を的に当てるんだ。なかなかクールだよ」

どうクールなのか僕には良く分からなかったけど、加藤君といっしょに居ることが全然苦痛じゃないし、それどころか何だか楽しくもあった。僕としてはとても珍しいことだと思う。

「今度の土曜日の昼過ぎは空いてる? 良かったらいっしょに行こう。と言っても街の練習場じゃなくて僕の秘密の練習場なんだ」

そう言うと、加藤君はきつね色の唐揚げをポイっと口の中に入れた。僕はそれを見て、ゴクッと唾を飲み込んだ。

「秘密の練習場? それってどこにあるの?」唾を飲み込む音をかき消すように、僕は早口で質問した。

「うちの家の近くの森の中なんだ。神社なんかもあってさ、その神社だって、初詣や七五三の時以外はほとんど人も来ない。とても良い環境なんだ」

「わかった。行こう! 土曜の午後は空いてる」

日曜だって一日中空いてるというセリフは、サンドイッチの最後の一かけといっしょに飲み込んだ。最後になってハムの味が少しだけした。僕にだってプライドはあるんだ。

ご馳走様でしたって、加藤君は手を合わせて弁当箱を片付け始めた。僕もサンドイッチの袋をカバンの中にしまい、牛乳パックの残りを、口を付けてぐいっと飲んだ。少しぬるくなった牛乳がのどを通っていく。

「僕はこれから地理の授業があるんだ。君は?」

加藤君は立ち上がりながらデニムのバッグを肩にかけた。バッグの上にあった藤の葉っぱがふわっと落ちて僕の白いカバンの上に乗り、無地の白いカバンに緑のアクセントを作った。立ち上がった加藤君の後ろにある四月の太陽が眩しくて、額に手のひさしを作りながら

「僕は生物の授業だ。じゃー土曜日」

加藤君は軽く手を上げて、太陽の方に向かって歩いて行った。太陽の光を浴びた加藤君は輪郭が曖昧になり、ここで過ごした数十分も吹き矢の約束も、現実ではなかつたような気がしてきた。でも、僕の白いカバンの上には藤の葉っぱが色鮮やかに置かれている。

土曜日の午後、僕らは加藤君の家の近くの神社で待ち合わせをした。加藤君が言ったように古い神社だった。新しい私鉄の駅が出来て、たくさんの住宅が出来、この神社とそれに続く森だけが取り残されたような、ここだけが異質な空間だった。木が多いせいか少し冷やっとする。参道の両脇にはほとんど散ってしまった桜が、ピンクの花びらの上に整然と並んでいた。どの木も、生まれたての繊細な緑に覆われ、その間にチラホラ見られる桃色の花びらはすでにその役割を終えていた。加藤君は山門の横にある大きな石の上に座っていた。紺色のデニムのバッグを斜交いにかけ、濃いグレーの綿カーディガンに薄いベージュのチノパン。足元のクロックスのスニーカーはいかにも軽そうで、森の中を駆け回るのにちょうど良さそうだった。

「この神社の裏に僕の練習場があるんだ。君の分の吹き矢も持ってきた。ちょっと練習すればすぐに慣れる。意外と面白いもんだよ」

そう言って、大きな石から降りるとさっさと参道を歩き出した。僕は加藤君の後に付いた。ピンク色の土を踏みながら、その感触が懐かしかった。加藤君が踏んでいく桜の花びらは、まだ新鮮で、加藤君が踏むと、フワッと浮いて風に流される。無数の花びらが僕らが通った後で風になる。

社務所を通り抜け、一番奥の社の横道に入る。社務所にも社にも人の気配は無い。

「午前中は神主さんがいるんだけど、土日の午後は誰もいない時が多い。神主さんがジムで筋トレをしたり、営業をしたりしていろいろと忙しいらしい」

僕は、神主さんが、こめかみに青筋を立てて、ベンチプレスをしている姿を想像してみた。その後、スーツ姿の神主さんがノートパソコンを持って、営業活動をしているところを想像しようとしたけど、うまく想像できなかった。

腰まである雑草や、木の枝を払いながら少し歩くと、立木のまばらな広場に出た。加藤君はムクノキの太い一本に三〇センチ四方のウレタンを取り付け、その上に的らしい紙を貼った。そして、カバンからいくつかの筒を取り出し、組み立てて一メートル程の長さの筒を二つ作る。

「さぁ、これで準備が出来た。君は初めてだから六メートル位からかな?」

そう言って加藤君は的から六メートル位の位置に棒で線を引き、少し短い筒を僕に渡した。そして、矢の込め方や吹き方、構え方など、基本的なことを教えてくれた。

「僕が一度やってみるから。それを真似して、何度か練習したらすぐに出来るようになるよ」(つづく)

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2013年1月 2日 (水)

福袋、やっぱり向いてないや(^^;)

今年も無印の初売り福袋に挑戦しました。

10:30分開店の5分前に並んだのですが、それほどの人数ではありませんでした。20人もいなかったと思います。ステーショナリーの福袋だけ買いたかったのです。

そして、売り場へ。

あっと言う間に無くなりました。

僕はかろうじて一個残っていた福袋を手にしました。

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これは全然欲しくもなんともない福袋でした。そして、すぐに何人かの人が、この福袋を戻していました。僕も戻そうと思ったのですが、わざわざ来て、何も無しでは格好がつかないので、買うことにしました。

それにしても、みなさんの素早いこと!!ホントに驚きました。あっという間に1人で四個も五個も手にしている人が結構います。そして、要らないのを戻すのですが、それも、あっという間に無くなります。僕は一番人気のないこの「ヘルス&ビューティー」の福袋を、結局最後まで持っていたことになります。

もう一つは、奪い合いしなくても買えるこの「福缶」です。

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今年は宇都宮郷土玩具の「黄鮒」でした。これは2千円なのですが、2013円のプリペイドカードが入っているので、実質無料ということになります。

負け惜しみではないのですが、僕は福袋よりこの福缶が好きです。何故あんまり売れないのかわかりません。

「ヘルス&ビューティー」の福袋の中に、気に入ったのが一つありました。LEDのキャンドルライトが二個入っていました。一個700円のものです。なかなか雰囲気のある良いものでした。

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それにしてもステイショナリーの福袋、残念でした。でも、僕にはやっぱり無理です。もう少し数を増やして欲しいものです。それに、1人で四個も、五個も取らないで欲しいと思いました。やれやれ。

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2013年1月 1日 (火)

take it easy その1

みなさん、あけましておめでとうございます。

今年も、このブログに訪れていただけたら幸いです。今日から短編を少し連載します。良かったら読んでみてください。

 

「teke it easy」その1

M高に入学して一週間目のお昼休み。僕は中庭のベンチに座って、売店で買ってきたハムサンドと牛乳でお昼を食べていた。もちろん一人で。

藤棚の下に何脚か置かれたベンチには、僕のように一人で食べている生徒や、友だち数人で食べている生徒もいたが、特に混雑しているわけではない。僕がこの高校を選んだ一番の理由は、この高校にはクラスが無いことだった。固定されたクラスという空間が無い。必要な必修科目さえ取れば、後は自由に選択科目が選べる。大学と同じように自分がカリキュラムを組んで、自分が選んだ教室に授業を受けに行く。有名な進学校でもあるので倍率も偏差値もかなり高い。でも、僕は受験勉強がちっとも苦にならない。決まった内容の学習を決められたとおり記憶し、問題を解決するための手順を一つ一つきちんと覚えていけば良いだけだ。僕は一日に何時間だって机に向かって勉強出来る。それは、クラスメートと多くの時間を割いて、任天堂や、ソニーのゲームの話をするよりもずっと楽なことだった。

「ここに座っていい?」

無防備な僕の背中に突然の声。僕よりも少し背の高い、僕と同じ位痩せた男子が立っていた。トレンドショートの清潔な髪に童顔の彼は人なつこい笑顔をしていた。

「ああ、どうぞ」

正直言って、僕は一人で食事をしたかったし、食事の後には読みかけの本を読みたかった。それに、ベンチは他にも空いていた。でも、彼の笑顔は僕のささやかな欲求を反故にした。

「君も一年生? 入学式の時に見かけた気がする。僕は加藤 翔。翔はカケルって書くんだ。宜

しくね」

彼はそう言って、紺色のデニム地のバッグから弁当を取り出した。弁当の蓋を取りながら

「良かったら君もどう? この唐揚、ちょっと美味しいと思うよ」

そう言って僕に勧める。本当に美味しそうな唐揚げだった。きつね色にほどよく焼けた唐揚げは、見ただけで、ジューシーで、ショウガ醤油の味がしそうだった。でも、いくら何でも、初対面で唐揚げをもらうわけにはいかない。僕の心臓は、彼にその音が聞こえるのではないかと思うほど激しく脈打ち、顔が熱くなってきた。

「いいよ、僕はサンドイッチがあるから」

そう言うのがやっとだった。

「そう。じゃー無理に勧めるのは止めよう。こっちの卵焼きも美味しいんだけどな」

まだ、ちょっと未練があるようだ。彼は人に親切にするのが嬉しいんだと思う。そして、彼のその気持ちは僕を不快にはしない。

「良かったら、君の名前を教えてくれない?あっ、もちろん、嫌じゃなかったらね」

あんまり自然に聞くものだから

「僕は立川圭介。一年生。僕も入学式で君を見かけたような気がする。宜しく」

これ以上省略出来ない位、最低必要限の情報だったと思う。でも、僕はこれ以上何を言って良いのかわからなかった。加藤君の白いシャツにグレイと白のボーダーのカーディガンが藤棚の緑とよく合っていて眩しかった。細長い藤の葉っぱが一枚、フワッと飛んできて弁当の蓋に落ちた。それが合図のように加藤君が話した。

「どうしてこの高校を選んだの?」

その質問に対して、僕がどう答えたら無難に理解してもらえるのか少し考えていたら、

「僕はね、生意気かもしれないけど、校風とか、進学とかそんなことはどうでも良いと思っている。この高校は僕たちをほって置いてくれる。つまり、勉強するのも、しないのも、楽しむのも、楽しまないのも君たちの自由だってね。単位が取れなかったら卒業出来ないし、受験勉強をしなかったら進学も出来ない。でも、それは学校が決めることじゃなく、僕が決めることだ。そういうのって僕の生き方に合っている。何よりもクラスがないのが良い。自分が選んだ訳でもない集団の中で毎日過ごさなければならないなんて僕は納得できない。校則も制服もない。これは自由だということではなくて、学校は僕らをほって置いているんだ。そして、ほって置いてくれる学校だからここを選んだ」

加藤君は僕の答えなんて、最初から聞く気がなかったかのようにごく自然にそう話した。僕に話しかけてるのではなくて、藤棚や、四月の風や、加藤君のお弁当や、僕のサンドイッチに語りかけるような穏やかな話し方だった。そして、僕の言おうとしていたことと良く似ていた。僕は聞かれたので、一応答えるべきだと思い

「僕も君と同じだ。だいたいの主旨はね」

それだけ言って、サンドイッチをガブッと口に入れた。レタスのシャキッとした歯触りと、マヨネーズの少し酸っぱい油脂を意識しながらゆっくりかみ砕いた。僕は人と話をするのが苦手だし、群れの中に入ることも苦手なんだというセリアは、サンドイッチといっしょに飲み込んだ。

「ねえ、良かったら今度、僕と吹き矢に行かない?」

とても良いことを思いついたように加藤君が突然言った。(つづく)

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