« あれ?確かここは……? | トップページ | しまったぁ〜 »

2013年1月16日 (水)

小説「take it easy」 ~その6~

八月に入って間もない頃、彼女から電話があった。

「私です。結城みどりです……」

少し沈黙があって

「あの時はどうもありがとう。今日はあなたが言っていた吹き矢がしたいと思って電話したの。あの話はまだ有効なの?」

「も、もちろん有効さ。あっ、元気にしてる?」

「うん、元気よ……でも……。私、吹き矢を練習することにしたの。それに、あなたたちにきちんとお礼も言ってないし」

「お礼なんて、僕は何にもしてないし、加藤君が君を助けたんだ。まあ、それはそうと、今度の土曜日はどう?」

「私は大丈夫。どこに行けばいいの?」

土曜日の時間と場所を伝え、電話を切った。そして、彼女の番号を登録する。彼女の声は少し明るくなっていた。でも、それまでのことを考えると、心臓のあたりが少し痛くなる。加藤君に電話して彼女も来ることを伝える。

「良かったね。彼女の吹き矢を用意しておくよ。君は彼女が好きなんだね」

加藤君はそう言って電話の向こうで少し笑った。

「いや、そんなことはないよ。でも、何だか気になるんだ」

加藤君の言う意味で好きなわけではないが、とても気になる。子猫がカラスに襲われそうになったら誰だって助けるだろうし、守ってあげたいと思うはずだ。それが出来るがどうかは別にして……。

僕らは、それからたびたび三人で吹き矢をした。吹き矢はシンプルだけど、とても魅力的だった。僕よりも後に始めた結城さんは、僕よりも得点が高くなった。きっと彼女の中にあるいろんな思いが季節外れのレモンのように膨らんで矢を押し出すんだ。そして、それは確実に的の真ん中に近づくに違いない。

結城さんは僕らと同じ高校一年生だった。高校は違うけど同じ町の中にある。僕も加藤君もあの時のことにはまったく触れていない。成り行き上、聞いておいた方が良いのかもしれないけど、出来なかった。彼女だってきっと思い出したくもないに違いない。

「ねえ、吹き矢って人を殺すことも出来るの?」

結城さんはとても真剣な顔でそう聞いてから、すぐに笑顔を作った。しかし、笑うと出来る小さなえくぼと、眉毛まで垂れる清潔に梳かれた前髪を持つその笑顔は、どう考えてもわざとらしかった。

「うん、出来るよ。アメリカ先住民族が使っていたクラーレという毒薬は呼吸器系を麻痺させてしまうし、東インドの未開民族の使う毒薬はストリキニーネだ。これは、すぐに効果は出ないけど、三十分位経つと、痙攣を起こし、呼吸麻痺で死ぬ場合もある。後、殺すわけではないけど、南米や東南アジアの狩猟民族は様々な毒薬を使って狩りをする。その場合、大半は狩猟が目的なので、一時的に麻痺させればいいわけで毒薬は体に残らない。これってすごいよね。吹き矢だから気配も感じさせないし、相手の体に毒も残らない」

加藤君は新しい発見に興奮したかのように、少し上気した顔で言った。

「ふうーん……」

結城さんは、あまり感心が無さそうに頷いていたけど、澄んだ大きな目は真剣だった。

ある日、いつものように吹き矢の練習が終わった後に、結城さんから提案があった。

「ねえ、私たちバンドをやらない? イーグルスのような古い曲をやりたいの。西海岸の風ような、海の匂いがする曲をやりたい」

結城さんの突然の提案に、僕も、加藤君もちょっと戸惑った。

「バンド? って、あのバンドだよね。ギターとか、ドラムスとかの、あれだよね?」

僕の質問はかなり間の抜けた質問だったかもしれない。でも、それぐらい結城さんの提案は唐突だった。

「面白いね。僕は賛成だ。立川君はどうだい?」

加藤君は、「帰りにマクドにでも寄らない?」という提案に賛成するかのように気軽に答えた。

「イーグルスは良いかもしれないけど、僕は楽器なんてやったことがない。今すぐは無理だと思う」

僕は加藤君のように何でもすぐに出来るタイプではないし、それなりに努力が要る。こつこつと練習することはまったく苦痛じゃないし、何の問題もない。ただ、初めてのことは結構心の準備が必要だ。

「そうね。すぐには無理よね。準備期間が必要ね。役割を決めて準備しましょう。そうね、私は何をしょうかな?」

僕の戸惑いなどまったく考慮すべきことではないかのように、彼女の頭の中ではもう、すべてが進行し始めていたようだ。そして、僕もつられて、何が出来るだろうなどと考え始めていた。(つづく)

|

« あれ?確かここは……? | トップページ | しまったぁ〜 »

小説・童話」カテゴリの記事

コメント

いやぁ、イーグルスの登場で、
ますます面白くなってきましたね。

マクドナルドのことを
この辺では「マック」といいますが、
関西方面では「マクド」になると
聞いたことがあります。
やっぱりそうなんですね(^o^)

投稿: くるたんパパ | 2013年1月17日 (木) 05時39分

吹き矢で人を殺せるかという問いかけも
気になるけど、バンド結成するかもしれ
ないというのも気になります。(^~^*)

>季節外れのレモンのように膨らんで
って面白い表現ですね。(*^ ^* )V

投稿: casa blanca | 2013年1月17日 (木) 10時50分

くるたんパパさん
読んでいただいてありがとうございます。

>関西方面では「マクド」になると
聞いたことがあります。

はい、そうなんです。「マクド」が一般的です。「マック」というと、アップルのマックという感じですhappy01

高校生とイーグルス、面白い取り合わせじゃないかな?と思ってます。

投稿: モーツアルト | 2013年1月17日 (木) 22時16分

casa blancaさん

>季節外れのレモンのように膨らんで
って面白い表現ですね。

読んでいただいてありがとうございます。
この表現は僕も気に入っています。うれしいです。ちょっとした表現で、気に入った表現が出来るととてもうれしいです。それが小説を書く楽しみでもあり、苦しみでもありますcoldsweats01

投稿: モーツアルト | 2013年1月17日 (木) 22時20分

いきなりバンドの話になりましたね。
今回、まったく予測不明のストーリー。
次はどう展開するんでしょう。

投稿: ブルー・ブルー | 2013年1月19日 (土) 00時26分

ブルー・ブルーさん

>いきなりバンドの話になりましたね。

そうなんです。唐突な展開だという指摘もありましたcoldsweats01。もう少し必然性を持たせるべきだと思うのですが、今の所、うまく話が浮かばなくて……。ちょっと考えます。
三十枚ほどの短編なので、結構難しいです。
読んでいただいてありがとうございます。

投稿: モーツアルト | 2013年1月19日 (土) 22時58分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/187847/56556756

この記事へのトラックバック一覧です: 小説「take it easy」 ~その6~:

« あれ?確かここは……? | トップページ | しまったぁ〜 »