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2013年1月 1日 (火)

take it easy その1

みなさん、あけましておめでとうございます。

今年も、このブログに訪れていただけたら幸いです。今日から短編を少し連載します。良かったら読んでみてください。

 

「teke it easy」その1

M高に入学して一週間目のお昼休み。僕は中庭のベンチに座って、売店で買ってきたハムサンドと牛乳でお昼を食べていた。もちろん一人で。

藤棚の下に何脚か置かれたベンチには、僕のように一人で食べている生徒や、友だち数人で食べている生徒もいたが、特に混雑しているわけではない。僕がこの高校を選んだ一番の理由は、この高校にはクラスが無いことだった。固定されたクラスという空間が無い。必要な必修科目さえ取れば、後は自由に選択科目が選べる。大学と同じように自分がカリキュラムを組んで、自分が選んだ教室に授業を受けに行く。有名な進学校でもあるので倍率も偏差値もかなり高い。でも、僕は受験勉強がちっとも苦にならない。決まった内容の学習を決められたとおり記憶し、問題を解決するための手順を一つ一つきちんと覚えていけば良いだけだ。僕は一日に何時間だって机に向かって勉強出来る。それは、クラスメートと多くの時間を割いて、任天堂や、ソニーのゲームの話をするよりもずっと楽なことだった。

「ここに座っていい?」

無防備な僕の背中に突然の声。僕よりも少し背の高い、僕と同じ位痩せた男子が立っていた。トレンドショートの清潔な髪に童顔の彼は人なつこい笑顔をしていた。

「ああ、どうぞ」

正直言って、僕は一人で食事をしたかったし、食事の後には読みかけの本を読みたかった。それに、ベンチは他にも空いていた。でも、彼の笑顔は僕のささやかな欲求を反故にした。

「君も一年生? 入学式の時に見かけた気がする。僕は加藤 翔。翔はカケルって書くんだ。宜

しくね」

彼はそう言って、紺色のデニム地のバッグから弁当を取り出した。弁当の蓋を取りながら

「良かったら君もどう? この唐揚、ちょっと美味しいと思うよ」

そう言って僕に勧める。本当に美味しそうな唐揚げだった。きつね色にほどよく焼けた唐揚げは、見ただけで、ジューシーで、ショウガ醤油の味がしそうだった。でも、いくら何でも、初対面で唐揚げをもらうわけにはいかない。僕の心臓は、彼にその音が聞こえるのではないかと思うほど激しく脈打ち、顔が熱くなってきた。

「いいよ、僕はサンドイッチがあるから」

そう言うのがやっとだった。

「そう。じゃー無理に勧めるのは止めよう。こっちの卵焼きも美味しいんだけどな」

まだ、ちょっと未練があるようだ。彼は人に親切にするのが嬉しいんだと思う。そして、彼のその気持ちは僕を不快にはしない。

「良かったら、君の名前を教えてくれない?あっ、もちろん、嫌じゃなかったらね」

あんまり自然に聞くものだから

「僕は立川圭介。一年生。僕も入学式で君を見かけたような気がする。宜しく」

これ以上省略出来ない位、最低必要限の情報だったと思う。でも、僕はこれ以上何を言って良いのかわからなかった。加藤君の白いシャツにグレイと白のボーダーのカーディガンが藤棚の緑とよく合っていて眩しかった。細長い藤の葉っぱが一枚、フワッと飛んできて弁当の蓋に落ちた。それが合図のように加藤君が話した。

「どうしてこの高校を選んだの?」

その質問に対して、僕がどう答えたら無難に理解してもらえるのか少し考えていたら、

「僕はね、生意気かもしれないけど、校風とか、進学とかそんなことはどうでも良いと思っている。この高校は僕たちをほって置いてくれる。つまり、勉強するのも、しないのも、楽しむのも、楽しまないのも君たちの自由だってね。単位が取れなかったら卒業出来ないし、受験勉強をしなかったら進学も出来ない。でも、それは学校が決めることじゃなく、僕が決めることだ。そういうのって僕の生き方に合っている。何よりもクラスがないのが良い。自分が選んだ訳でもない集団の中で毎日過ごさなければならないなんて僕は納得できない。校則も制服もない。これは自由だということではなくて、学校は僕らをほって置いているんだ。そして、ほって置いてくれる学校だからここを選んだ」

加藤君は僕の答えなんて、最初から聞く気がなかったかのようにごく自然にそう話した。僕に話しかけてるのではなくて、藤棚や、四月の風や、加藤君のお弁当や、僕のサンドイッチに語りかけるような穏やかな話し方だった。そして、僕の言おうとしていたことと良く似ていた。僕は聞かれたので、一応答えるべきだと思い

「僕も君と同じだ。だいたいの主旨はね」

それだけ言って、サンドイッチをガブッと口に入れた。レタスのシャキッとした歯触りと、マヨネーズの少し酸っぱい油脂を意識しながらゆっくりかみ砕いた。僕は人と話をするのが苦手だし、群れの中に入ることも苦手なんだというセリアは、サンドイッチといっしょに飲み込んだ。

「ねえ、良かったら今度、僕と吹き矢に行かない?」

とても良いことを思いついたように加藤君が突然言った。(つづく)

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コメント

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
いよいよ、始まりましたね。
読んでいますよぉ。

投稿: ブルー・ブルー | 2013年1月 2日 (水) 00時12分

あけましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願い申しあげます。

短編小説、楽しみにしています。

ひとりで食事したい時って
ありますよね。

投稿: くるたんパパ | 2013年1月 2日 (水) 06時16分

始まりましたね。(^~^*)

集団生活のできない若者が増えてるよう
ですけど、この二人もそういう人達で
気心が合うのかな。さて、どういう展開
になっていくんでしょう。

「take it easy]というタイトルの
ように気楽に構えて楽しめばいいのかな?

今年もよろしくお願いします。

投稿: casa blanca | 2013年1月 2日 (水) 12時23分

ブルー・ブルーさん
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

読んでいただいてありがとうございます。楽しめていただけたらうれしいです。
30枚位の短い小説です。

投稿: モーツアルト | 2013年1月 2日 (水) 14時28分

くるたんパパさん
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

>ひとりで食事したい時って
ありますよね。

そうですね。一人の方がゆっくり味わえる時もありますね。大学では一人の食事が多いです。

小説読んでいただいてありがとうございます。

投稿: モーツアルト | 2013年1月 2日 (水) 14時33分

casa blancaさん
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

>「take it easy]というタイトルの
ように気楽に構えて楽しめばいいのかな?

はい、そうです。エンタメですので、気楽に読んでいただけたらうれしいです。

投稿: モーツアルト | 2013年1月 2日 (水) 14時35分

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