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2013年1月14日 (月)

小説「take it easy」 ~その5~

三人は、町の方に向かって住宅街を黙って歩いた。白い家の庭に、散りかけたクチナシが今にも落ちそうに枝にぶら下がっていた。あんなに白く清楚に咲いていた花びらは憂鬱気に少し黄ばんでいた。

「加藤君、さっきのあの矢は何か特別なの? 毒か何か塗ってあるみたいだった」

さっきの出来事には出来るだけ触れないようにと思いながらも、つい口に出てしまった。

「うん。あれは特殊な矢なんだ。ケニアのパパル族が狩猟に使う矢だ。ライオン位の獣を一時的に麻痺させるために使う。麻酔銃のようなものかな? 護身用だよ」

「ゴシンヨウ?……」

なぜ、護身用に持ち歩く必要があるのか不思議に思ったけど、人にはそれぞれの事情があるのかもしれない。僕が護身用に拳銃を持つよりは日常的なのだろう。そんな薬や特殊な矢をどこで手に入れるのかとか、聞きたかったけど、その話はそこで終わりにした。

「もう、ここで良い。ありがとう。私は結城みどり。高校生。また会うかもしれないね」

そう言うと、彼女は、もう振り向きもせず、大きなストライドで歩いて行った。肩までの髪が大きなストライドに合わせてふわっ、ふわっと揺れていた。大股で歩く後ろ姿は泣いていた。僕は彼女の後を追った。何かを伝えようとしたわけではなく、追いかけずにはいられなかっただけだ。

「ねえ、吹き矢をしよう。僕らと吹き矢をしようよ」

何も考えていなかったのに、僕の口が勝手にしゃべった。振り向いて僕を見た彼女はやっぱり目の縁が赤くなっていた。人差し指を目尻に当てて涙を拭いて、不思議そうに僕を見る。

「吹き矢?」

「そう、さっき加藤君があいつらをやっつけた吹き矢さ。僕らはいつも練習しているんだ」

彼女は七月の空を一度だけ見上げた後

「うん。やる」

と、言って今度は少し笑った。

「これ、僕の連絡先。もしよかったらここに連絡して」

僕は急いでカバンからノートとシャーペンを取り出し、ケータイの番号を書いて彼女に渡した。

じゃーっと言って僕は走って戻る。一度だけ振り向いたら、彼女はちょっとだけ手を挙げてくれた。

戻った僕に、加藤君は「大丈夫かな?」と、心配そうだった。

「大丈夫じゃないと思うけど、でも、最悪の状態は避けられたんだ。それだけでも良かったのかもしれないよ。僕らは誠実だった」

僕が言うと

「毒薬でも良かったかもしれないな」

「毒薬も持っているの?」

僕が目を丸くして聞くと

「持ってないよ。」

僕は、加藤君は持っていると思った。理由はわからないが、加藤君の顔は、その反対のことを言っていた。

僕らはそれからも吹き矢をした。あの秘密の練習場は何となく行きにくく、僕らは新しい練習場を探した。そして、町の反対側に同じような小さな森を見つけ、そこを新しい練習場にした。この町は東京のような大都会ではないので、そういう場所は、探すのにそれほど難しくはない。僕は前よりはずっと良い点数が取れるようになった。(つづく)

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コメント

仲間が増えましたね。
彼女の存在が気になります

投稿: くるたんパパ | 2013年1月15日 (火) 05時31分

精神的に強い女の子かと思ったら、涙を。
毒矢、持っていそうな・・・

投稿: ブルー・ブルー | 2013年1月15日 (火) 22時15分

くるたんパパさん
すみません。お忙しいのに読んでいただいてありがとうございます。

3人になったのでバランスが良くなったと思いますhappy01

投稿: モーツアルト | 2013年1月15日 (火) 22時47分

ブルー・ブルーさん
お忙しいのに読んでいただいてありがとうございます。

>毒矢、持っていそうな・・・

そうですね。毒矢をもっているかもしれませんねthink

投稿: モーツアルト | 2013年1月15日 (火) 22時49分

加藤君、護身用とはいえ、毒矢を持って
いそうなのは何故なんだろう?
気になります。

投稿: casa blanca | 2013年1月16日 (水) 00時10分

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