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2013年1月27日 (日)

小説「take it easy」 ~その7~

結局、バンドをやらないという方向にはまったく進まず、結城さんはピアノ、加藤君はベース、僕はギターということに決まった。ドラムスは無いけど、まあ、いいや、ということになり、僕らは準備を始めた。ギターを買うことには何の問題もない。僕は普段ほとんどお金を使わない。任天堂やソニーのゲームソフトも必要ないし、着るものは母親が買ってきてくれる。音楽はラジオで聞く。時々父親のCDを借りて聞くこともあるが、自分で買うことは無い。だから、銀行の僕の口座にはギターを買うくらいのお金は十分にある。昔ギターをやっていたという父親に相談して決めようと思った。

「おまえがギターをやるのか? 何か勉強にでも使うのか?」

父親は意味の分からない質問をしたが、僕は無視した。父親はそれでも、何だかうれしそうで、いっしょに楽器屋に行って選んでくれる約束をした。ソファーに座って、父親が読んでいた夕刊を手に取り後ろからページをめくる。普通の高校生は新聞なんて読まないらしいけど、僕は新聞が結構好きだ。関わりたくないけど、世の中にどんなことが起きているのか知るのは嫌いじゃない。少なくとも、友達やタレントの噂話よりはずっとましだと思う。

後ろからページを一枚めくると交通事故のニュースが出ていた。若い男が二人、オートバイで事故を起こして重体だそうだ。二人の男の顔写真と事故を起こした場所の写真が出ていた。そして、目撃者の話が載っていた。<オートバイに二人乗りしていて、結構なスピードを出して走っていたようだ。変な蛇行運転で、そのまま神社の側の、数メートル下を流れる川に突っ込んで行った。酔っぱらい運転でもしていたのだろうか?>

しかし、警察の調べでは酒は飲んでいなかったらしい。薬物の可能性もあるとのコメントがついていた。

あの神社だ。若い男二人は、あの時の男達だ。新聞の顔写真は少しわかりにくかったけど、僕は顔の特徴を覚えるのが得意だ。間違いはない。僕は加藤君にすぐに電話をした。

「僕も見たよ。君の言う通りあの男達だ。ネットで調べてみたら、あいつらは、いろいろと悪いことをしていたようだ。窃盗、傷害。一番多かったのは婦女暴行だそうだ。ほとんどの被害者が告訴しないのを良いことに、次々と犯行を犯していたらしい。悪党だ。死ねば良いんだ」

加藤君はとても冷静にそう言った。受話器を持った童顔の加藤君の顔を思い浮かべたが、電話の響きとその顔はなかなか一致しなかった。

「立川君、弁神論って知ってる? 」

加藤君が突然質問した。

「ベンシンロン?」

「もし、ライプニッツの弁神論が正しいとすれば……あの男達は、神の何らかの意志で生かされてきた。そして、今回、また、神の何らかの意志で抹消された。すべては神の摂理だよ」

僕は加藤君の言っていることがよくわからなかった。電話を切った後

「吹き矢かもしれないな」と、何の脈絡も無く思った。そして、吹き矢を構えながら、強い眼差しで二人の男を見つめる結城さんの姿が浮かんだ。アイボリーのチノパンに、<No Nukes One Love Good Music>というロゴの入った白いTシャツを着ている。毒薬はクラーレかな、ストリキニーネかな?

「それはないよね。でも、そうだったら……」

その想像はとてもステキだと思った。

吹き矢の役割が終わり、彼女は何か新しいことを始めようと思ったのかも知れない。そして、バンドも僕らにはとてもふさわしく思えた。(つづく)

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コメント

バンドがいよいよ活動するのですね。
さてどんなバンドになるのかなぁ
たのしみです。

若い男二人が交通事故ですか?
予想していた展開と違っています。
どう展開するのでしょうか

投稿: くるたんパパ | 2013年1月27日 (日) 14時57分

オートバイ事故、
んーー、やっぱり吹き矢としか...

バンドも気になるけど、事故の原因の
方が気になるかも。

投稿: casa blanca | 2013年1月27日 (日) 17時06分

くるたんパパさん

>どう展開するのでしょうか

読んでいただいてありがとうございます。
30枚限定のお話なので、もうほとんど終わりです。すみません。

投稿: モーツアルト | 2013年1月27日 (日) 21時39分

casa blancaさん

>んーー、やっぱり吹き矢としか...

そうなんです。推理小説ではないので、いくつかの材料だけ書いて、読者の想像におまかせするという書き方です。無責任ですみません。どういう想像でも、構わないんです。
僕としては、結城さんが吹き矢を使ったというつもりで書きました。

投稿: モーツアルト | 2013年1月27日 (日) 21時52分

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