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2013年5月29日 (水)

小説「アンタレス」~その4~

先生が、研究会に参加するために隣の中学校に出張した日のことだ。それまでにも、朝学校に行ったら上靴が無かったとか、体操服がゴミ箱に捨てられていたりしたことはあった。でも、この日はちょっと違っていた。お昼に弁当を取り出した時、クラスの何人かが僕を見て、ニヤニヤ笑っている。それはとても嫌な感覚だった。なめくじが僕の腕を這っているような、そんなべたっとした薄気味の悪い感覚だった。

「いっただきまーす」

と言ってうれしそうに弁当を開ける奴、黙って弁当を開けて、黙々と食べる奴。近所に座っているクラスメートと冗談を言いながら、ご飯粒を飛ばして食べている奴。卵焼きやら冷凍ハンバーグやら、焼いたピーマンの臭いやらが教室の空気を満たしていた。そんないつもの教室に居ながら、僕はなかなか弁当の蓋を開けることが出来なかった。弁当を包んだナプキンのリボンの結び目が縦になっていた。

「どうしたの? お弁当食べないの」

森田さんが僕の所にやってきた。大きな二つの瞳の間に少ししわが出来ていた。

「ううん、何でもない。お弁当食べるよ」

僕はそう答えて弁当の蓋を開けた。そして、数秒後に蓋を閉めた。白いご飯の上に茶色い虫がくっきりと浮かんでいた。僕は拳を握りしめてうなだれた。拳にはいつものようにべったりと汗をかいていた。その汗が全身を回り、足の先までたどり着くと、今度は足が震えだした。止めようとしても、僕にはどうしようも出来なかった。森田さんが弁当の蓋をとった。そして、その茶色い虫を捕まえた。手にとって天井の蛍光灯にかざしてみたりした。周りにいた女子が小さな悲鳴を上げた。

その声を聞いて、みんなが森田さんを見た。彼女は何度も見てから

「おもちゃね。悪いいたずらだ」

そう言うと、あからさまに大声で笑っている数人の真ん中で、声は出していないが、わざと笑いをこらえて俯いている男子の前に立った。田中君だ。クラスの全体が急に音を無くした。

「あなたね」

(つづく)

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コメント

森田さん、恰好いい。
いっちゃうのかな?
(。_゚☆\(- - ) バシっ! っと。

投稿: casa blanca | 2013年5月29日 (水) 12時56分

バシッと
いってもらいたいですねぇ。

でも暴力はいけない!
って止めちゃうかなぁ?

投稿: くるたんパパ | 2013年5月29日 (水) 17時07分

casa blancaさん
読んでいただいてありがとうございます。
パシッとではないのですが、かなり大胆なことをしますよ。
もし良かったら続くも読んで下さい。

投稿: モーツアルト | 2013年5月30日 (木) 16時40分

くるたんパパさん
読んでいただいてありがとうございます。
今度は暴力ではないのですが、かなり大胆なことをします。
もし良かったら続きを読んでみて下さい。

投稿: モーツアルト | 2013年5月30日 (木) 16時41分

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