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2013年6月 4日 (火)

小説「アンタレス」~その6~

「やめろ!」

生まれてから一度も大きな声を出したことが無い僕は、その声が僕の口から出たものだとは少しの間信じられなかった。でも、田中君の動きが止まった。そして、ゆっくり僕の方を見た。

田中君だけでなく教室のみんなが、その声が僕のものではないことを確認するように僕の方を見た。

たくさんの視線を跳ね返すように、僕は田中君の方に駆けだし、お腹に頭突きを繰り出した。

途中、何人かの子にぶつかったような気がしたが、そんなことは大したことではなかった。僕は夢中で田中君にしがみついて離れなかった。

僕を乗せたまま後ろ向きに倒れた田中君は床に頭を打ち付けた。

ゴンという音が、僕にはとてつもなく大きな音に聞こえた。

「田中、もうやめろよ!」

学級委員の緑川君が大きな声で制止した。ようやく、学級委員の立場に目覚めたんだと思う。

彼は、バスケット部で、背が高く、女の子にもてていた。女の子だけでなく、男子の間でも、なかなか評判が良かった。

その緑川君が制止したので、田中君もそれ以上何もしなかった。というよりも、すでに戦意を喪失していたと言うべきかもしれない。

のろのろと立ち上がり、自分の席に座ると、食べかけの弁当を不味そうに食べ始めた。田中君の様子をずっと目で追っていたみんなは、それを見ると、中断してしまった昼食の続きに戻った。

張りつめていた教室の空気が弁当のおかずの臭いと入れ替わった。

僕は小さな声で森田さんに「ありがとう」って言った。

「こっちこそ、助けてくれてありがとう。うれしかったよ」

擦りむいた左手の肘をちらっと見た後に、僕の顔を見て少し笑った。僕はその笑顔を見て、心臓が大きくドキンと動いたのを意識した。

緑川君は森田さんに何か言いかけようとしたようだったけど、それを不自然な笑顔に替えて自分の席に戻った。彼は立派に役割を果たしたんだ。(つづく)

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小説・童話」カテゴリの記事

コメント

普段おとなしい子が
怒るととても印象深いですよね

その効き目も大だし…。

僕は叱り方がヘタなので、苦労していますweep

投稿: くるたんパパ | 2013年6月 5日 (水) 05時39分

やったね、僕。(*^ ^* )V

森田さんを守った。

気になる女(ヒト)を守るのは

男の本能か...

そして僕は自分の気持ちに気付く。(^~^*)

女性にとっては、嬉しい行動ですね。

さて、二人はどう進展していくのかな?

投稿: casa blanca | 2013年6月 5日 (水) 06時25分

くるたんパパさん
いつも読んでいただいてありがとうございます。

>僕は叱り方がヘタなので、苦労しています

そうなんですか?くるたんパパさんは怒鳴ったりせず、理詰めで説得しそうな感じかな。

叱るのは難しいです。授業の時、私語があったりすると、「良いですか?」と指をさすとたいがいは私語を止めます。叱らなくても済むので助かりますhappy01

投稿: モーツアルト | 2013年6月 5日 (水) 16時43分

casa blancaさん
いつも読んでいただいてありがとうございます。

>そして僕は自分の気持ちに気付く

あはははー。するどい!
「僕」はコミュニケーション能力が低いので、なかなか難しいかもしれませんcoldsweats01
良かったら続きも読んで下さい。

投稿: モーツアルト | 2013年6月 5日 (水) 16時47分

ちゃんと読んでいるんですけど、途中でいろいろ書けない私です。
最後まで読んでから、いっぱい感想など。

投稿: ブルー・ブルー | 2013年6月 5日 (水) 22時54分

ブルー・ブルーさん
いつも読んでいただいてありがとうございます。

>ちゃんと読んでいるんですけど、途中でいろいろ書けない私です。

ホント、気になさらないで下さい。小説の途中の感想って書きにくいと思います。決して、書かないといけないと思わないで下さい。もし、書きたいと思ったら書いてください。
良かったら続きも読んでみて下さい。

投稿: モーツアルト | 2013年6月 6日 (木) 23時20分

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