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2014年3月10日 (月)

小説「陽炎」~その6~

「こういう番組がだんだん作りにくくなっている。当事者だった僕が言うのも変だけど、テレビはそのうち社会的な役割を失ってしまうのかもしれないね」

彼女は僕の目を見て、きちんと話を聞いてくれた。

「私、その番組を見ました。良い番組だと思いました。まだ、こういう番組もあるんだなって、ちょっと救われた気がしてた。ひどい番組が多すぎるから」

「ありがとう。そう評価して貰えたらうれしいよ。もう、番組を作ることはないけどね。」

「でも、何だか納得出来ないなー辞めるなんて。もちろん、なかなか入れない会社だとか、お給料が良いとかで、勿体ないということもあるけど、そんなに簡単に自分でリセットしちゃって良いのかなー。あの番組だって、きちんと最後まで作って欲しいし、そうじゃないと被害者が浮かばれない。これはあなたのせいじゃないないかもしれないけど、もっと別な途もあったんじゃないかって今思った。あっ、生意気言ってごめんなさい。良く知りもしないくせにね」

と言って、一回空を見上げてから

taiyou

「だって、突然リセットさせられて、どうしていいか途方に暮れている人もたくさんいるでしよう?」

彼女はそう言った後、足下の小石を一つ拾い、ぽいっと、投げた。小石は小さな放物線を描き、参道の石畳に跳ね返り、少し転がって止まった。同時に森のカラスがギャッと鳴いて一斉に飛び立った。そして、カラスの羽音と、森のざわめきが止むと、辺りは、朝の太陽の「ジー」という僅かな音しか聞こえなくなった。

zinzya

(※イメージです)

彼女は、思い出したように、

「蒼空さんは別居と仰ったから、今はお一人なんですか?」

「正式にはまだ離婚はしていないけど、二年前に、彼女から別居の話を持ち出され、別れた。今でも思うんだけど、とてもあっけない別れだった。僕は怒鳴ったり、わめいたりする暇もなかった」

「怒鳴ったり、わめいたりするの?」

不思議そうな顔で訊ねる。

「比喩だよ。僕は怒鳴ったり、わめいたりしない。まったくしない訳じゃないけど、滅多に無い。僕の成長の過程で、何かの理由で、怒鳴るとか、わめくとか、人と争うことが抑制されてきたのかもしれないね。そうしたい時もいっぱいあったけどね。心の中に閉じこめておくんだ。たぶん、それが僕にとってベターな生き方なんだと思う。臆病なんだろうね。でも、彼女は、怒鳴ってでも引き留めて欲しかったのかもしれまない。たぶん」

「臆病なんかじゃないと思う。そういうことが出来ることって大事だと思う。怒鳴って相手を納得させたり、主張を理解させたり、同意させたりなんて絶対に出来ないもの。でも、事情はよくわからないけど、その時の奥様はあなたに怒鳴って欲しかったのよね。あなたの言うように、強く引き留めて欲しかったのかもしれない」

彼女は、僕の目をじっと見てそう言った。まるで、僕の目の中の弱い部分を見つけたように。

僕は彼女の目を見返した。その瞳に、僕の歪んだ顔が映っていた。

「そうかもしれないな。そう出来たらって今でも思っている」

僕は少し黙った後

「それより、君のことも教えてもらえると嬉しいな」(つづく)

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コメント

主人公がどんな人なのか、どんどん明らかになってきていますね。
結羽に話すように、妻にも話していたら、出て行かれずにすんだかもしれない、と思いました。
でも、他人にはいろいろ話すのに、家では無口な人って、けっこういるんですよね。

次は結羽のお話ですね。
いったい、どんな人なんだろう?!
楽しみです。

投稿: 三日月猫 | 2014年3月11日 (火) 10時52分

くるたんパパさんのおっしゃるように

我が家も自宅では言葉数が少ない派かも。

次回は、結羽の話。

どう展開してくるのかなぁ。

楽しみです。

投稿: casa blanca | 2014年3月11日 (火) 15時52分

三日月猫さん
読んでいただいてありがとうございます。

>結羽に話すように、妻にも話していたら、出て行かれずにすんだかもしれない、と思いました。

小説の世界なのですが、何だかドキッとします。
あまりにも身近だと言葉が不足してしまうのかもしれません。
気をつけなくっちやcoldsweats02

今、新しい小説を書いているのですが、すごく書きたいのに、時間が無くてイライラしています。

投稿: モーツアルト | 2014年3月11日 (火) 22時13分

casa blancaさん

>我が家も自宅では言葉数が少ない派かも。

そんな風には思えませんよhappy01
旦那様は無口なような気もしますが、casa blancaさんがうまいこと、話を引き出しているような気がしますconfident
やっぱり、いろいろと話をしないといけないんでしょうねthink

投稿: モーツアルト | 2014年3月11日 (火) 22時17分

なんかリアルだなぁ

でもこのドキドキ感、ときめき感から
しばらく遠ざかっています(^0^;)

投稿: くるたんパパ | 2014年3月14日 (金) 20時25分

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