« お弁当持ってプチ花見 | トップページ | 小説「出前迅速」~その2~ »

2014年4月 3日 (木)

小説「出前迅速」~その1~

<いきなり、新連載です。良かったら読んでみて下さい>

「出前迅速」

前川は焦っていた。前のペガススが異様に遅く感じられる。もう時間が無い。出来れば、この遅い車を追い越したい。しかし、追い越すには道幅が狭すぎる。とにかく、今は、その車にぴったりと付き、もう少し速く走るように促すしかない。しかし、ペガススは前川の意図に気づく素振りもなく、相変わらずトロトロと走っている。

今日は、昼の出前がいつもより立て込んでいた。おまけに、出前要員の大学生新人アルバイトがなかなか帰って来ないので、年は同じであるが、先輩格の前川はいつもより多くの出前客を抱えることになる。お陰で、約束の時間に大幅に遅れて、怒鳴られっぱなしだ。さっきも、

「おまえんとこの寿司は、注文を受けてから魚を釣りに行くんか!」

などと嫌みを言われた。まあ、この程度の嫌みならまだましで、「もう要らんから持って帰れ!」などと言われると、まったく困ってしまう。

この出前も、ぎりぎりで店を飛び出した。それでも渋滞が無かったら何とか間に合うかもしれないと前川は読んだ。幸い渋滞は無く、前川の運転する出前用の軽のワゴン車は順調に走っていた。しかし、途中で急に横道から入ってきたペガススがやたら遅い。この車が邪魔だ。前川は、優等生の代表のようなこの車が元々嫌いだった。客が怒り出す二十分遅れ前には何とか着きたかった。このネズミ色の車を前川は何度も罵倒した。

交差点に差し掛かった。秋風に揺れる真っ赤な葉の間から信号機が見える。鮮やかな青だと思っていたら、黄色に変わり、周りの葉と調和する。前は、ペガスス一台だけ。このタイミングで行けば、黄色の内に交差点に入れる。大阪では当然のことだ。

しかし、なんと、ペガススが止まった。黄色なのに? 前川は慌ててブレーキを踏む。思いっきりオレンジ色のテールランプを睨んだ。その時、前川の右手から自転車が車を抜いて、S字型に曲がり、ペガススの左に止まった。本格的なスポーツ車である。ドロップハンドル、細いタイヤ。フィーゴの自転車用ヘルメット。身体にぴったり張り付いた白いシャツ。同じくぴったりの黒いパンツ。腰にウエストポーチを装着しているだけで、もちろん、何かのデリバリーではない。よく見ると、白人の青年らしい。前川は白人青年のウエストポーチに、なにやらプリントしてあることに気付いた。その文字を読んだ。勘亭流の書体だ。

出前迅速

ほんの少し間を置いて、前川の緊張や怒りが急速に解け出し、強ばった顔が緩んだ。信号を左折してきた対向車の女性が、大口を開けた緩んだ顔の前川がハンドルを叩く様子を見て、怪訝そうな表情で通りすぎて行った。(つづく)

zitensha

(※イメージです)

|

« お弁当持ってプチ花見 | トップページ | 小説「出前迅速」~その2~ »

小説・童話」カテゴリの記事

コメント

大学生の時に
うなぎ屋の出前持ちをしていたので、
リアルに読みましたよ。

出前が遅くて、怒られたことはありませんが、
交通事故に遭い、出前のうなぎがメチャクチャになったことを思い出しました(^0^;)

さてどんな展開になるのでしょうか
楽しみです

投稿: くるたんパパ | 2014年4月 4日 (金) 05時24分

あら、私も学生時代、うなき屋さんで
バイトをしたことが... でも、出前は
してませんけどね。(笑)

颯爽と現れた白人青年と
バッグの勘亭流書体の「出前迅速」の
結びつきが面白い。

ガラリと変わった内容
展開が楽しみです。

投稿: casa blanca | 2014年4月 4日 (金) 07時46分

新しい雰囲気の小説ですね。

優等生の代表のような車に苛立つ主人公の気持ちが、よく伝わってきます。

意表をつく白人青年の出現が、とても興味深いです。

投稿: 三日月猫 | 2014年4月 4日 (金) 11時16分

くるたんパパさん

>大学生の時にうなぎ屋の出前持ちをしていたので、リアルに読みましたよ。

そうなんですか!!地理に詳しくないといけないし、時間に追われるし大変な仕事だったと思います。事故にまで遭われたので、あまり良い思い出ではないのでしょうね。

お忙しいのに、長い文章を読んでいただいて申し訳ありませんでした。
ありがとうございます。

投稿: モーツアルト | 2014年4月 5日 (土) 07時27分

casa blancaさん
casa blancaさんもうなぎ屋さんでアルバイトをしていたのですね。くるたんパパさんと同じだなんて奇遇ですねhappy01。面白いなー!!

>ガラリと変わった内容
展開が楽しみです。

今までと雰囲気が違うかもしれません。「笑い」の部分「前川は大声で笑った」と書かないで、どうやって、前川の笑いを表現するか、結構考えました。
普通のブログと違って、少し長い文章になりますが、良かったらつづきも読んでいただけたら嬉しいです。

読んでいただいてありがとうございました。

投稿: モーツアルト | 2014年4月 5日 (土) 07時34分

三日月猫さん

今回、少し雰囲気を変えてみました。短い小説ですが、いつもと違った雰囲気を出したいと思いました。結局あまり変わらないかもしれませんがcoldsweats01

>意表をつく白人青年の出現が、とても興味深いです。

実は、この青年はここだけで終わりなのですが、再登場させてもいいなーって、今思いました。
読んでいただいてありがとうございました。

投稿: モーツアルト | 2014年4月 5日 (土) 07時39分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/187847/59406997

この記事へのトラックバック一覧です: 小説「出前迅速」~その1~:

« お弁当持ってプチ花見 | トップページ | 小説「出前迅速」~その2~ »