« 小説「Angel/小さな翼を広げて」~その4~ | トップページ | 異変が…… »

2014年10月19日 (日)

小説「Angel/小さな翼を広げて」~その5~

そう言って、ケータイの番号とメールアドレスをメモした紙を渡してくれた。でも、連絡するまでもなく、長治原さんからしょっちゅう連絡があった。体の様子を訊ねるだけでなく、いろんな事に誘ってくれた。例えばそれは演劇の鑑賞であったり、音楽のコンサートであったり、ハイキングであったり、長治原さんが所属する、大学のワンダーフォーゲルの行事であったりした。彼は、僕と違っていろんな事に関わっていた。とても活動的で友だちも多かった。

「君は高校の時にギターをやっていたって言ってたよなー。友だちにバンドをやっている奴がいるからそいつらといっしょにやってみないか」

なんて、誘われたこともある。長治原さんは僕の性格をよく知っていて、出来るだけたくさんの人と友だちになれるように配慮してくれているのだと思う。

「なあ、立川。俺には弟はいないけど、君のような弟がいたら良いと思う。君と接していると何だかホッとするんだよな」

それは僕も同じだ。長治原さんのような兄がいたらいいなーといつも思っている。だから長治原さんと知り合いになれたのは今回の事故のお陰だった。不幸中の大幸いかもしれない。この事故が僕にもたらした変化がもう一つある。今まで心の中に眠っていた不思議な感覚だ。小学生の時に森田さんと星を見ていた時に僕の意識が宇宙に飛びだしアンタレスの光を浴びて以来の感覚だ。うまく言えないけど、それは感覚というより眠っていたある種の力のようなものかもしれない。

2004年、大学を卒業して先輩の「夢工房」に入った。僕にとって、この選択肢しかありえなかった。そして、それはとても有り難いことでもあった。この法人は、地域に住む「障害」を持つ人達が活動する場と「健常者」との交流の場でもある。、小規模ではあるが、パンやケーキ、様々な自然食品のお菓子の製造販売もしている。僕はそちらの担当になった。僕の仕事は、ここで作ったお菓子を小学校や幼稚園、保育所などの行事の時に使ってもらうように営業したり、配達したりすることや、学校や地元の会社の職員にお菓子などの自然食品や弁当を販売することが主な仕事だった。その日も、かなり使い込んだ軽のワンボックスの車に乗って小学校に遠足のおやつの営業に出かけた。F小学校は僕が初めて営業活動をする学校だった。先輩もいっしょに来る予定だったが職員の一人が急に休んだため一人で行くことになった。

「夢工房の立川と申します。遠足のおやつの件で伺いました。教務主任とお会いしたいのですが、お取り次ぎ願えませんでしょうか」

運転しながら小さな声で何度も何度も呟いた。同じセリフを数十回繰り返し、フッとため息をついた時に学校らしい建物が見えてきた。体内の心臓の鼓動を意識しながら車を停め校門を開けてもらった。もう放課後なのか子どもたちの姿は見えなかった。門を入った正面に管理棟があった。公立の学校には珍しい建物だった。三階建ての管理棟は新しく、たぶん有名な建築家がデザインしたのだろう。僕が今まで見た小学校のイメージとまったく違っていた。総ガラス張りの玄関の、中央にある扉だけスチール製である。午後の日差しを受けて鈍く輝いていた。その上ー階段や踊り場があるのだろうー扉から屋根までもガラス張りで、三角の屋根が建物の真ん中に突きだしていた。玄関の右側の壁は、一階から屋上まで鳶色の巨大なレリーフ板で覆われていた。レリーフは子どもや動物、たくさんの花や家々が描かれていた。子どもの作品をモチーフにしているのかもしれない。レリーフの上の方には、それらを見守るように小さな翼を広げた天使が描かれていた。

shougakkou

(※イメージです)

車を駐めて思わず建物を見つめていた。再び車を動かし、校舎の端、満開の桜の木の下に停め、深呼吸をしてから、地面の桜の花びらを踏まないように車を降りる。玄関の前の広場はアスファルトではなく、うっすらと色の付いたジオメトリックの大きな石板を組み合わせたような地面だった。(つづく)

 

※しばらく間があいてしまったので、今回は少し長くなりました。すみません。

|

« 小説「Angel/小さな翼を広げて」~その4~ | トップページ | 異変が…… »

小説・童話」カテゴリの記事

コメント

おはようございます

大学を卒業して、
営業マンとして勤めましたが、一番最初の訪問先のことはまったく思い出せません。

おそらく必死だったのでしょうね。
なので登場人物も気持もなんとなくわかりますよ。

来月の学園祭で障害者が作っているクッキーを代理販売しようかと検討中です。
調べてみるとそんな施設がけっこうありました。

そんなことを思いながら読ませていただきました。

投稿: くるたんパパ | 2014年10月20日 (月) 05時41分

くるたんパパさん、お早うございます。
いつもありがとうございます。

>来月の学園祭で障害者が作っているクッキーを代理販売しようかと検討中です。

それはいいですねー。是非実現してください。
もうすぐ学園祭ですね。去年模擬店で食べた三陸のサンマのつみれ汁がとても美味しかったです。それと市民の模擬店で蔓で編んだリースをとてもリーズナブルな値段で買ったのですが、それらがとても印象的でした。
良い季節になりました。

投稿: モーツアルト | 2014年10月20日 (月) 09時40分

立川君、初の営業、
しかも、いきなり一人とは、
大丈夫かなぁ。
まるで母親のような気持ちに
なっちゃいました。

どんなことが待ち受けてるのか
楽しみです。

風邪を引かれてたようですが、
もうすっかりいいのかしら?
季節の変わり目、私も去年
風邪を引いてたような記憶が...

投稿: casa blanca | 2014年10月20日 (月) 10時48分

casa blancaさん、こんにちは。
いつも読んでいただいてありがとうございます。

立川君大変なことが起こってしまうんですよhappy01

>風邪を引かれてたようですが、
もうすっかりいいのかしら?

ありがとうございます。ちょっと無理したみたいで、すっかりこじらせてしまいました。やっぱり若くはないなーなんて今更ながら思います。
casa blancaさんもお気を付けてお過ごしください。

投稿: モーツアルト | 2014年10月21日 (火) 14時57分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/187847/60510061

この記事へのトラックバック一覧です: 小説「Angel/小さな翼を広げて」~その5~:

« 小説「Angel/小さな翼を広げて」~その4~ | トップページ | 異変が…… »