小説「Angel/小さな翼を広げて」~その3~
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僕は森田さんと二人で公園のベンチに座り星を見ていた。すると、僕の意識がまるで粒子の一つになったように、体からすーっと離れ、空に向かって飛んでいく。ベンチに座っている僕と森田さんの頭の上をゆっくり、大きく、くるくる回りながら空に上っていく。僕は、取り巻く全てのもの、そして、自分自身からも自由になり、純粋に一つの粒子になる。星を指さしている森田さんの後ろ姿が小さく見えた。一緒に見ている僕の後ろ姿も見えた。それらもどんどん小さくなり、やがて青く輝く地球にすいこまれてしまう。僕の意識は何十光年も離れた双子座のすぐ近くにたどり着く。直径数十光年のドームの中で、隅々の星まで響き渡る、音の無い宇宙の交響曲を聞きながら僕は飛び回る。さそり座の心臓・アンタレスに近づき、真っ赤に輝く光を全身に浴びる。僕の意識は張りつめた圧倒的な力を感じる。すると、アンタレスから光の矢が僕に向かって飛び出してくる。そして、それが胸の奥深くにジワジワッと染みこみ、まるでそこが、元々の居場所だったかのようにストンと収まった。僕はそのエネルギーの強さに一瞬身震いし、そして、やがてその力に少しずつ同化していく。混乱していた意識が元の配置に戻り、平静を取り戻した。再び無音の交響曲が聞こえてくる。ぶるんと身体を震わせ、ぐるぐると大きく周りながら公園を目指して降下する。薄暗い公園に双子座のように、そこだけ光っている二人の姿を見つけ、僕の意識は僕の中に吸い込まれる。
(※イメージです)
♣
僕はそこで突然目を覚ました。まだ、小学生のあの時の公園にいるような気がした。隣の森田さんを探した。でも、そこはまったく見知らぬベージュと白の空間だった。しかも、僕はそこに寝ていた。灰色の天井に蠅が一匹、もそもそと動いていた。もう飛べないのか、飛ぶ気がないのか、ゆっくりと動く様子は水を求めて荒涼とした砂漠を歩く旅人のようでもあった。僕はひどくのどが渇いていた。
「大丈夫か?」
心配そうな髭の顔が僕をのぞき込んでいる。少しだけ間を置いて、僕の記憶が印刷工場に戻った。(つづく)
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コメント
おはようございます
小説の内容と関係ないのですが、
星空を眺めていると、宇宙の彼方から逆にのぞかれているような錯覚を起こします。
文明が発達した異星人が、地球の様子をみて楽しんでいるような…。
ロマンチックではないですよね。
若いときにデートでそんなことを言ったら
すぐに嫌われてしまいますよね
投稿: くるたんパパ | 2014年10月 8日 (水) 05時51分
くるたんパパさん、今晩は。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
>文明が発達した異星人が、地球の様子をみて楽しんでいるような…。
なるほど。分かるような気がします。今日も皆既月食を見ましたが、もしかして異星人が「あいつら、何を珍しがってみてんやろ。変やなー!」なんて言ってるかもしれませんね
空を見るのが大好きで、何かにつけて見上げています。
投稿: モーツアルト | 2014年10月 8日 (水) 23時01分