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2014年10月 5日 (日)

小説「Angel/小さな翼を広げて」~その2~

大学生活はとりわけ新鮮なものではなかったが、僕が少し大人になった分、今までより少し広く世の中を見れるようになったような気がする。一人暮らしは快適というわけではなかったけど、たぶん、成長に必要なことなのだと思った。

大学の講義は出来るだけたくさん登録し、どれもきちんと出席するようにした。多くの学生はきっとそうはしない。それが普通だし合理的なのだと思う。でも、僕はそうしなかった。ほとんど毎日、朝から出席し、夕方近くまで大学に居た。講義の無い時間は図書館や大学のカフェで本を読んで過ごした。授業が終わるとアルバイトをした。近くの印刷会社の工場で週に三回働いた。お金が欲しいというよりも、僕の苦手なコミュニケーションの問題や、少しでも社会にコミットすべきだという、僕自身が抱える問題のためであった。

印刷会社の工場では、製品を入れる段ボールの組立をした。夕方五時から九時まで黙々と段ボールを組み立てた。その作業はそれほど苦痛ではなかった。シンプルな同じ作業を繰り返し続けることは嫌ではないし、作業をしながら大学の授業や読んだ本を反芻するのは楽しくさえあった。

ある日、いつものように段ボールを組み立てながら社会学の授業で聞いたウェーバーの「幸福の弁心論と苦難の弁心論」について反芻していた。その時、中腰になっていた僕の背中に強い衝撃があって、前のめりに倒れ、さらにその上に続いて衝撃が重なった。右の頬がコンクリートの床にこすれた。印刷工場特有のインクと紙の臭いが混じった埃の臭いを嗅ぎながら背中の痛みをこらえた。

「大丈夫か?」

僕の背中に乗った重荷を取り除き、男がのぞき込んだ。髭を生やした男は心配そうに訊ねた。ディズニーのアニメの熊のような顔だった。声を出そうとしたが、うーっと呻くことしか出来なかった。

「おーい! 誰が来てくれー」

男が叫んだ。ばたばたと近づくいくつかの足音を聞きながら意識を失った。(つづく)

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コメント

学生時代の話が始まったと思ったら
いきなり、意識を失っちゃいましたね。

人と上手く向き合えない彼が
バイト先でどのような人間関係を
構築していくのか、先が読みたいなぁ。

投稿: casa blanca | 2014年10月 6日 (月) 00時15分

こんばんは

台風が接近しています
月曜の朝からとてもハードですよね

さて、大した怪我でなければ良いのですが…。

投稿: くるたんパパ | 2014年10月 6日 (月) 02時21分

くるたんパパさん、お早うございます。
いつも読んでいただいてありがとうございます。

>台風が接近しています
月曜の朝からとてもハードですよね

お疲れ様です。東京も大変な状態でしたね。月曜日から台風なんてホントにハードです。
7時の時点で暴風警報が出ていたので、午前中休講で、8時で解除されたので、午後は通常通りでした。ややこしい一日でした。

投稿: モーツアルト | 2014年10月 7日 (火) 10時19分

casa blancaさん、お早うございます。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
すみません、順番が逆になってしまいました。

そちらは台風の被害は大丈夫でしたか?大阪の方は警報は出ましたが、それほど大きな被害も無いようでまずはホッとしました。

>学生時代の話が始まったと思ったら
いきなり、意識を失っちゃいましたね。

あはははーそうなんです。少し縮めてしまいました。実は序章もあったのですが、連載するに当たって相当の部分をカットしました。多少不具合があるかもしれません。お許しください。

投稿: モーツアルト | 2014年10月 7日 (火) 10時24分

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