小説「Angel/小さな翼を広げて」~その1~
曖昧で少し優しい9月もあっという間に終わりました。
ブログもずいぶんご無沙汰してしまいました。
今日から新しい小説を連載しようと思います。今回から、1回の量は新聞の連載小説程度にしました。
もし良かったら読んでみてください。
三部作の最終章になります。一部と二部は以前このブログに掲載したものです。「アンタレス」と「take it easy」という作品です。
しかし、一部、二部を読んでいなくても、あまり不具合を感じないように書いたつもりですので、この作品だけ読んでいただいても大丈夫です。
<小説「Angel/小さな翼を広げて」~その1~>
ⅰ
僕はいつものように仕事に出かけた。過労であっけなく死んでしまった医者の従兄からの形見分けの小さなフィアットで由美を保育所に預け、仕事場に向かう。車で十五分ほど行くと僕の仕事場がある。「夢工房おひさま」という手作りの小さな看板の店だ。僕の大学の先輩が九年前に立ち上げた工房だ。十人ほどの人たちが働いている。軽い「障害」を持った人達も居る。
「圭介、おまえのようなナイーブな神経の人間には、一般の会社勤めは難しいだろう。オレの仕事を手伝ってくれ。大した給料は出せないけど、そこそこ暮らしてはいけると思う」
口ひげを生やした大きな体の先輩が大まじめに言った。小さいけど優しい目は少し笑っていたけど。
先輩の言うように、ナイーブなのかどうかはわからないが、僕は小さい時から人とうまくつきあえなかった。しかし、例外的に、小・中学校の時に同級生だった森田さんという女の子と、高校生の時の加藤君、結城さんという三人の友人がいた。三人とも今は、僕の周りにはいない。森田さんは中学の途中で転校して行った。加藤君は高校を卒業すると両親の住むボストンの大学に入学した。結城さんは以前から住みたいと思っていた京都に住み、そこの大学に入学した。結城さんはバランス良く美しいまま大人になっていた。そして、僕は地元のー富士山が見えること位しか特徴の無い小都市ー国立大学に進学した。大学のある町までは通えない距離ではなかったが、僕は僕自身のために親元を離れてアパートを借りることにした。僕にしては大きな決心だった。僕ら三人はバラバラになってしまったけど、たぶん、いつもお互いの心の中に、それほど小さくない特別のテリトリーを持っているのだと思う。僕らはお互い誠実であり、三人で唄う歌がきれいにハモるように、僕らには個人的な共鳴がずーっと続いているのだと思う。だから僕はちっとも孤独ではない。(つづく)
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コメント
こんにちは
>ナイーブな神経の人間には、一般の会社勤めは難しいだろう。
なんか印象に残るセルフです。
最近ではコミュニケーション能力がどうだとか、兎角言われていますが、上手に話せない人、伝えられない人って結構いますよね。
それをダメ人間扱いするのはよくないと常々思っています。
発達障がい?
なんてとんでもないことを平気で言う人もいます。
ちょっと小説には関係ありませんが、そんなことを思いました。
投稿: くるたんパパ | 2014年10月 5日 (日) 11時15分
くるたんパパさん
お久しぶりです。コメントありがとうございます。
ブログをすっかりご無沙汰してしまって、やっと通常の生活に戻れたような気がしています。
こんなんですが、これからもよろしくお願いします。
>ちょっと小説には関係ありませんが、そんなことを思いました。
ありがとうございます。良かったらこれからも読んでいただけたら嬉しいです。
投稿: モーツアルト | 2014年10月 5日 (日) 20時47分
こんばんは。
お久しぶりです。
お忙しいのだろうとは思っていましたが、
お変わりなくて良かったです。
待ってました、新連載。
そろそろ小説のリクエストしようかと
思っていたんです。(*^ ^* )V
初回なので、これからどう展開して行くのか
わかりませんが、何となく
「色彩を持たない多崎つくると...」を
思い浮かべてしまいました。
学生時代の人間関係が大人になって
どう絡んでくるのか楽しみです。
投稿: casa blanca | 2014年10月 6日 (月) 00時07分
casa blancaさん
これからもよろしくお願いします。
お早うございます。ホントにご無沙汰してしまいました。やっと戻って来ました
小説もまだ前半だけなのですが、書き上げました。後半はまだ書いている途中なのですが、とりあえず連載してみることにしました。良かったら読んでみてください。
>「色彩を持たない多崎つくると...」を
思い浮かべてしまいました。
特に意識はしていないのですが、そう言われてみればそうですね。この小説は、以前ブログで連載した「アンタレス」「take it easy」の続きになります。うまく完成出来ればいいと願っています。
そう言えば、ノーベル文学賞。今年も候補にあがっている村上春樹さん、是非受賞して欲しいものです。
投稿: モーツアルト | 2014年10月 7日 (火) 10時15分