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2014年10月

2014年10月31日 (金)

小説「Angel/小さな翼を広げて」~その8~

「僕は、あの時とあまり変わってないと思う。森田さんと別れてから、また一人だったけど、高校に入って友だちが二人できた。加藤君と結城さんって言うんだ。吹き矢もしたし、バンドも作って練習した。彼らのお陰で比較的安定した高校生活を送ることが出来た。君はどうだった?」

森田さんは少し考えてから

「そうね。いろんなことがあったし、少しの時間でとても要約できないわ。でも、無理に要約すると、あなたと同じように比較的安定した生活だったと思う。大学で教職をとってこの県の採用試験を受けた。私達が小学校から中学校まで過ごした場所に帰りたいと思った。少なくとも近くに戻れるような気がしたの。そして、この町に採用された。採用が決まった時に、何の根拠もないけど、これで立川君に会えると思った。そして今日会えたわ」

笑った口許からのぞいた八重歯と、スーッと頬を掠める初夏の風のような目元もあの時と同じだった。

「今日はこれから会議があってゆっくり話が出来ないの。今日の夕方空いてる?」

「僕は大丈夫だよ。いつも大概一人で過ごしているから」

「良かった。じゃー、六時に駅前のスタバで良い?」

僕の返事も聞かずに、森田さんは立ち上がって「教務必携」を抱えて部屋を出て行こうとしてくるっと振り返り

「ホントに立川君なんだ!」

心から安心したような顔を僕に向けて部屋から出て行った。

 

十五分前にスタバに着いた。レギュラーコーヒーを受け取って二人掛けのテーブルに席を取る。森田さんはまだ来ていなかった。仕事帰りや、学生風の男女でほぼ満席だった。仕事や授業から解放された人々の顔は一様に明るい。コーヒーをふた口飲んで、文庫本を三ページ読んだ時に森田さんがやって来た。群青色のオーガニック(たぶん)コットンセーターと白いジーンズ。深い緑色の少し大きめのバッグ。腕時計を見るとちょうど六時だった。森田さんは膝の上にバッグを載せて僕をまじまじと見た。

「ホントに立川君なんだ……」

僕はこんな風にしっかり見られたことがあまりないので、何だか落ち着かなかった。コーヒーカップを取って、ゴクンと音を立てて飲んだ。

「ねえ、立川君。あなたは今お付き合いしている女性は居る?」

唐突の質問だった。(つづく)

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2014年10月28日 (火)

文具展

まったく予期してなかったのですが、地下鉄の通路に「文具展」のポスターが貼ってありました。

すぐ近くなのと、その日が最終日だということで早速行ってみることにしました。

ステーショナリーは大好きなので、「文具展」は楽しいイベントです。

会場は結構な賑わいでした。

とにかく日本のあらゆる文具メーカーのブースがあります。いわゆる文具メーカーでない、エレコムやカシオなどのメーカーも出店してあり、なかなか興味深かったです。

 

「キングジム」のデジタル文具の新製品に期待したのですが、あいにくこれといった新製品はありませんでした。

僕の印象では、筆記具メーカーが頑張っていると思いました。ボールペンにしても万年筆にしても、筆ペンにしても、種類も豊富で、とにかくすごく書きやすいのです。

どのブースでも試し書きできるので、いっぱい試してみました。残念ながら販売はしていないので買うことは出来ないのです。良いと思った品物は文具店で探さないといけないのが残念です。

展示即売だといいのですが。

お試しのグッズもいろいろと頂きました。

bunguten

上のテープのりは、従来品に比べると、かなりしっかりと張り付けることが出来ます。しかも、きっちり端っこからテーピング出来ます。

下の左のメモ帳は、キングジムの物で、メモに書いたものをスマホやタブレットに取り込んでデジタル化出来るメモです。

真ん中が、何でも良く消える消しゴムです。まだ試してはいません。

右端は、キャップがないハンディーの油性マーカーです。結構便利そうです。

文具を見ると、妙に心が躍るのは何故でしょう?

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2014年10月26日 (日)

利き酒

京都伏見バルがこの土日にありました。

伏見の酒といえば、月桂冠や黄桜が有名なのですが、その他の小さな酒蔵もたくさんあります。

その伏見のバルでとても賑わっていました。

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そんな折に、黄桜に立ち寄って日本酒の利き酒と、地ビールの利き酒を味わってみました。

kikibeer

これで味比べをしてから本格的に飲むビールを決めます。当然ですが、こうやって飲み比べてみると味の違いがよくわかります。

でも、僕の場合はどのビールも美味しかったので、どれにするか迷い、結局、全部をジョッキで味わいました。

日本酒は撮り忘れてしまいました。日本酒も結局、4種類ほど、グラスで味わいました。

お店を出た後に、中庭を見ると、まだまだ皆さん盛り上がっていて、僕も空いたテーブルに座り、日本酒を次々とお代わりをしてしまいました。

寒くも暑くも無いこの季節、黄桜の緑と夜空の元でゆっくりと飲む日本酒はなかなか良いものでした。この日は珍しく若い女性と(別に怪しい関係ではないのですよ(^^;))いっしょに飲んだので、多少緊張しながらも、それはそれで良いひと時でした。

今日は少し二日酔いでした。

それと、今日は「杜の都 全国大学女子駅伝」がありました。立命館大学が4連覇となり、僕は大満足でしたhappy01

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2014年10月24日 (金)

YAMAYA PR7

一般的なボイスレコーダーにも使えるのですが、音楽の録音に特化したレコーダーです。

以前から使っていたローランドのレコーダーがついに壊れてしまい購入しました。

YAMAHAPR7

ギターのレッスンをしている音楽教室での紹介でかなり安く購入することが出来ました。価格ドットコムよりも安かったのです。

通常の録音はもちろんのこと、オーバーダビングや、再生スピードを変えたり、チューナーになったり、メトロノームになったり多才なのです。

最近アドリブの練習をしていて、予めコード演奏を録音しておいて、それを聞きながらアドリブの練習をします。これがなかなか気持ち良いのですよ(^^)

音楽教室でのレッスンは友人と2人なので、いろんなことが出来るのですが、家でのレッスンは当然1人なので、PR7は良い相棒になります。

毎日相棒と練習しています。

どんどん上手くなっていくようです(ウソです(^^;))

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2014年10月22日 (水)

小説「Angel/小さな翼を広げて」~その7~

「森田さんだよね……」

僕の声は擦れていたかもしれない。ゆっくり頷く彼女を見ながら僕はその場に座り込みそうになった。どうにか気持ちを落ち着けて、来意を告げ、教務主任のところに案内してもらった。一番奥の教務主任の机に着く直前に

「後で話がある。すぐに帰らないでね」

僕の耳元で急いでそう言うと職員室を出て行った。

ところどころ白髪が目立つ穏やかそうな教務主任に名刺を渡し、車の中で何度も繰り返した挨拶をしようとしたら言葉が出てこなかった。額にジワッと汗が出てきた。

「夢工房さんね。さっき長治原さんから電話があったよ。話はだいたい聞いたから後は担当の先生と話してください。ご苦労さまです」

彼は僕の話を待たずに、担当の教師の机に案内した。ショートカットのちょっとキュートな教師に名刺を渡し

「夢工房の立川と申します。遠足の……」

今度はすらすら言えた。

彼女との話が終わり、立ち上がって挨拶している時に森田さんがやって来た。森田さんは小さく頷いて職員室の後ろの部屋に案内した。コーヒーの染みが付いたテーブルと、所々破けたチェックのソファーと教室にある児童用のイスが二つ置いてあった。壁には「快適でゆとりある職場環境を!」と書かれた労働組合のポスターが貼ってあった。森田さんは僕にソファーを勧め、自分は向かい側の児童用のイスに座った。胸にピンクのアディダスのロゴが入ったグレーのジャージの上下姿で、「教務必携」と書かれた赤いA5版のノートを机の上に置いた。

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「何度も手紙を書いたの。でも、出さなかった。あの時の私が、何の注釈も補足もなく、そのまま立川君の心の中にあって欲しかったから。そして、必ずまた会えると分かっていたから」

森田さんは少し怖い顔をして僕を真っ直ぐ見て、それからフッと微笑んだ。そこには間違いなく小学生や中学生の森田さんが居た。左側にだけえくぼが出来る笑顔。僕は心も身体も適度にもみほぐされた後のように安らいだ。(つづく)

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2014年10月21日 (火)

小説「Angel/小さな翼を広げて」~その6~

玄関に入ると正面に大きな木製のレリーフがあった。たぶん何年か前の卒業制作なのだろう。星座を観測している子ども達の様子が彫られていた。真ん中の少し上に彫られたオリオン座が目を引いた。校名が擦れて見えにくくなった来客用のスリッパに履き替え「夢工房ひまわり・立川」と書かれた首に掛けた名札プレートに手を触れて確認した後、廊下に出た。廊下の両側に大小の部屋が並ぶ。ゆっくり歩きながらそれぞれの入り口に掲げられたプレートを確かめる。職員室と書かれたプレートのドアの前で立ち止まり、大きく深呼吸をする。ドアをノックしようと右手の拳を上げたときにドアが開いた。出てきた女性と目が合った。僕の身体を大量の電子の信号が貫いた。脳の中の一番大事な、そして心地よい記憶が信じられない位急速に身体を駆け巡った。そして、身体中の神経を覚醒させた。あの懐かしい顔、声、匂い、感触、そして、二人の間にあったわずかな空気の流れさえそこに感じることが出来た。首に掛かった彼女の名札プレートには<森田>と書いてあった。

「立川君……」

その声はあの森田さんのものだった。森田さんの背後の職員室の風景<ノートパソコンのキーボードを忙しく叩く人、深刻な顔で電話をしている人、印刷物を抱えて忙しそうに歩く人>がスーッと色を無くし、職員室の窓の外には中学生だったあの日の風景がスライドのように映し出された。

お盆の後の登校日に、森田さんが言いにくそうに僕に言った。

「お父さんの仕事の都合で転校するかもしれない。早ければ二学期に入る前。遅くとも三学期はこの学校ではないと思う。立川君と会えなくなるのはとても残念。でも、私にはどうすることも出来ないものね。でも、きっと又会えるような気がする。これはとても確実な予感よ。私の予感はだいたい当たるんだから。そうね、これは、予感じゃなくて、確実な未来の出来事なんだと思う。だから、その時はまたよろしくね」

森田さんは少し笑ってそう言ったけど、気持ちをどう表現していいのか分からない僕の表情を見ると、ちょっと俯いて、それから真っ直ぐ僕の顔を見て

「きっとよ」

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と言った。今度は笑っていなかった。運動場の上にはお昼の太陽だけがあり、後は何も無かった。ついさっきまで汗をかいていたのに今は汗が無い。森田さんは真上の太陽の光のせいで蜃気楼のように淡く揺れて、そのまま消えてしまいそうだった。(つづく)

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2014年10月20日 (月)

異変が……

うちの夕顔が未だ咲いています。

もう10月も中旬なのに……。

それも、今までは、夕方咲いて、朝にはしぼんでいるという、ノーマルで正しい咲き方だったのですが、朝日をサンサンと浴びて咲いているようになりました。

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そして、何とお昼間も!

夕顔の気持ちになって想像すると

「もうそろそろ私の季節も終わり。最後は朝顔、昼顔、夕顔、全部制覇してやるわ!これで燃え尽きます!」

と言っているような気がしてしょうがないのですが、皆さんはどう思いますか?

逞しいというよりは、何となく健気な気がして、

「楽しませてくれてありがとうね」

って、声をかけてやりたくなりました。また来年!

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2014年10月19日 (日)

小説「Angel/小さな翼を広げて」~その5~

そう言って、ケータイの番号とメールアドレスをメモした紙を渡してくれた。でも、連絡するまでもなく、長治原さんからしょっちゅう連絡があった。体の様子を訊ねるだけでなく、いろんな事に誘ってくれた。例えばそれは演劇の鑑賞であったり、音楽のコンサートであったり、ハイキングであったり、長治原さんが所属する、大学のワンダーフォーゲルの行事であったりした。彼は、僕と違っていろんな事に関わっていた。とても活動的で友だちも多かった。

「君は高校の時にギターをやっていたって言ってたよなー。友だちにバンドをやっている奴がいるからそいつらといっしょにやってみないか」

なんて、誘われたこともある。長治原さんは僕の性格をよく知っていて、出来るだけたくさんの人と友だちになれるように配慮してくれているのだと思う。

「なあ、立川。俺には弟はいないけど、君のような弟がいたら良いと思う。君と接していると何だかホッとするんだよな」

それは僕も同じだ。長治原さんのような兄がいたらいいなーといつも思っている。だから長治原さんと知り合いになれたのは今回の事故のお陰だった。不幸中の大幸いかもしれない。この事故が僕にもたらした変化がもう一つある。今まで心の中に眠っていた不思議な感覚だ。小学生の時に森田さんと星を見ていた時に僕の意識が宇宙に飛びだしアンタレスの光を浴びて以来の感覚だ。うまく言えないけど、それは感覚というより眠っていたある種の力のようなものかもしれない。

2004年、大学を卒業して先輩の「夢工房」に入った。僕にとって、この選択肢しかありえなかった。そして、それはとても有り難いことでもあった。この法人は、地域に住む「障害」を持つ人達が活動する場と「健常者」との交流の場でもある。、小規模ではあるが、パンやケーキ、様々な自然食品のお菓子の製造販売もしている。僕はそちらの担当になった。僕の仕事は、ここで作ったお菓子を小学校や幼稚園、保育所などの行事の時に使ってもらうように営業したり、配達したりすることや、学校や地元の会社の職員にお菓子などの自然食品や弁当を販売することが主な仕事だった。その日も、かなり使い込んだ軽のワンボックスの車に乗って小学校に遠足のおやつの営業に出かけた。F小学校は僕が初めて営業活動をする学校だった。先輩もいっしょに来る予定だったが職員の一人が急に休んだため一人で行くことになった。

「夢工房の立川と申します。遠足のおやつの件で伺いました。教務主任とお会いしたいのですが、お取り次ぎ願えませんでしょうか」

運転しながら小さな声で何度も何度も呟いた。同じセリフを数十回繰り返し、フッとため息をついた時に学校らしい建物が見えてきた。体内の心臓の鼓動を意識しながら車を停め校門を開けてもらった。もう放課後なのか子どもたちの姿は見えなかった。門を入った正面に管理棟があった。公立の学校には珍しい建物だった。三階建ての管理棟は新しく、たぶん有名な建築家がデザインしたのだろう。僕が今まで見た小学校のイメージとまったく違っていた。総ガラス張りの玄関の、中央にある扉だけスチール製である。午後の日差しを受けて鈍く輝いていた。その上ー階段や踊り場があるのだろうー扉から屋根までもガラス張りで、三角の屋根が建物の真ん中に突きだしていた。玄関の右側の壁は、一階から屋上まで鳶色の巨大なレリーフ板で覆われていた。レリーフは子どもや動物、たくさんの花や家々が描かれていた。子どもの作品をモチーフにしているのかもしれない。レリーフの上の方には、それらを見守るように小さな翼を広げた天使が描かれていた。

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(※イメージです)

車を駐めて思わず建物を見つめていた。再び車を動かし、校舎の端、満開の桜の木の下に停め、深呼吸をしてから、地面の桜の花びらを踏まないように車を降りる。玄関の前の広場はアスファルトではなく、うっすらと色の付いたジオメトリックの大きな石板を組み合わせたような地面だった。(つづく)

 

※しばらく間があいてしまったので、今回は少し長くなりました。すみません。

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2014年10月 9日 (木)

小説「Angel/小さな翼を広げて」~その4~

「あー、意識が戻って良かった。俺は長治原(ちょうじばら)勇二。フォークリフトの荷物を落としてしまった。本当に申し訳ない。君の意識が戻って本当に良かった」

男は心配そうな顔であったが、頬のあたりに少しだけ安堵の気配を感じさせながら、そう話した。僕は何だかうまく言葉が出てこなくて、男の顔をじっと見ていた。

「医者の話では、特に目立った外傷はないそうだ。荷物が当たった瞬間に頭を打ち付けたようで意識を失ったそうだ。少し落ち着いたら精密検査をするらしい。実は僕も君と同じS大学の学生で、あの工場でアルバイトをしている。工学部の四年生だ。本当に申し訳ないことをした」

僕が年下だとわかっているためか、敬語は使わないが、嫌みな感じはしなかった。そればかりか、言葉の空気の中に、ある種の親和性と暖かささえ感じた。僕はそういうのにとても敏感なのだ。

長治原さんは毎日お見舞いに来てくれた。病院で生活する上での細々したものも全部用意してくれたし、アルバイトも休んで午後からの面会の時間は毎日姿を見せた。

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(※イメージです)

「長治原さん、アルバイト休んでまで来てもらわなくても大丈夫ですよ。親も近くにいるし、もう僕は平気ですから」

「いや、それでは俺の気が済まない。かえって迷惑かもしれないけど、君が無事退院するまで様子を見に来るよ。要る物や必要な事があったら何でも言ってくれ。大学の方には連絡しておいた」

結局その病院で五日過ごした。幸い精密検査でも異常は見つからず、五日で退院した。病院の費用は印刷会社が支払ってくれた。退院の日は長治原さんが車で来てくれて入院の時の荷物と僕を運んでくれた。両親は来たがったけど断った。せっかく長治原さんが車まで手配して来てくれるというので、両親が車で来たら申し訳ないもの。

「いやー、これで俺も少し安心したよ。でも、しばらくは無理しない方が良いと思う。もし、何かあったらすぐに俺に連絡してくれよな」(つづく)

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2014年10月 7日 (火)

小説「Angel/小さな翼を広げて」~その3~

僕は森田さんと二人で公園のベンチに座り星を見ていた。すると、僕の意識がまるで粒子の一つになったように、体からすーっと離れ、空に向かって飛んでいく。ベンチに座っている僕と森田さんの頭の上をゆっくり、大きく、くるくる回りながら空に上っていく。僕は、取り巻く全てのもの、そして、自分自身からも自由になり、純粋に一つの粒子になる。星を指さしている森田さんの後ろ姿が小さく見えた。一緒に見ている僕の後ろ姿も見えた。それらもどんどん小さくなり、やがて青く輝く地球にすいこまれてしまう。僕の意識は何十光年も離れた双子座のすぐ近くにたどり着く。直径数十光年のドームの中で、隅々の星まで響き渡る、音の無い宇宙の交響曲を聞きながら僕は飛び回る。さそり座の心臓・アンタレスに近づき、真っ赤に輝く光を全身に浴びる。僕の意識は張りつめた圧倒的な力を感じる。すると、アンタレスから光の矢が僕に向かって飛び出してくる。そして、それが胸の奥深くにジワジワッと染みこみ、まるでそこが、元々の居場所だったかのようにストンと収まった。僕はそのエネルギーの強さに一瞬身震いし、そして、やがてその力に少しずつ同化していく。混乱していた意識が元の配置に戻り、平静を取り戻した。再び無音の交響曲が聞こえてくる。ぶるんと身体を震わせ、ぐるぐると大きく周りながら公園を目指して降下する。薄暗い公園に双子座のように、そこだけ光っている二人の姿を見つけ、僕の意識は僕の中に吸い込まれる。

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(※イメージです)

僕はそこで突然目を覚ました。まだ、小学生のあの時の公園にいるような気がした。隣の森田さんを探した。でも、そこはまったく見知らぬベージュと白の空間だった。しかも、僕はそこに寝ていた。灰色の天井に蠅が一匹、もそもそと動いていた。もう飛べないのか、飛ぶ気がないのか、ゆっくりと動く様子は水を求めて荒涼とした砂漠を歩く旅人のようでもあった。僕はひどくのどが渇いていた。

「大丈夫か?」

心配そうな髭の顔が僕をのぞき込んでいる。少しだけ間を置いて、僕の記憶が印刷工場に戻った。(つづく)

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2014年10月 5日 (日)

小説「Angel/小さな翼を広げて」~その2~

大学生活はとりわけ新鮮なものではなかったが、僕が少し大人になった分、今までより少し広く世の中を見れるようになったような気がする。一人暮らしは快適というわけではなかったけど、たぶん、成長に必要なことなのだと思った。

大学の講義は出来るだけたくさん登録し、どれもきちんと出席するようにした。多くの学生はきっとそうはしない。それが普通だし合理的なのだと思う。でも、僕はそうしなかった。ほとんど毎日、朝から出席し、夕方近くまで大学に居た。講義の無い時間は図書館や大学のカフェで本を読んで過ごした。授業が終わるとアルバイトをした。近くの印刷会社の工場で週に三回働いた。お金が欲しいというよりも、僕の苦手なコミュニケーションの問題や、少しでも社会にコミットすべきだという、僕自身が抱える問題のためであった。

印刷会社の工場では、製品を入れる段ボールの組立をした。夕方五時から九時まで黙々と段ボールを組み立てた。その作業はそれほど苦痛ではなかった。シンプルな同じ作業を繰り返し続けることは嫌ではないし、作業をしながら大学の授業や読んだ本を反芻するのは楽しくさえあった。

ある日、いつものように段ボールを組み立てながら社会学の授業で聞いたウェーバーの「幸福の弁心論と苦難の弁心論」について反芻していた。その時、中腰になっていた僕の背中に強い衝撃があって、前のめりに倒れ、さらにその上に続いて衝撃が重なった。右の頬がコンクリートの床にこすれた。印刷工場特有のインクと紙の臭いが混じった埃の臭いを嗅ぎながら背中の痛みをこらえた。

「大丈夫か?」

僕の背中に乗った重荷を取り除き、男がのぞき込んだ。髭を生やした男は心配そうに訊ねた。ディズニーのアニメの熊のような顔だった。声を出そうとしたが、うーっと呻くことしか出来なかった。

「おーい! 誰が来てくれー」

男が叫んだ。ばたばたと近づくいくつかの足音を聞きながら意識を失った。(つづく)

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2014年10月 4日 (土)

小説「Angel/小さな翼を広げて」~その1~

曖昧で少し優しい9月もあっという間に終わりました。

ブログもずいぶんご無沙汰してしまいました。

今日から新しい小説を連載しようと思います。今回から、1回の量は新聞の連載小説程度にしました。

もし良かったら読んでみてください。

三部作の最終章になります。一部と二部は以前このブログに掲載したものです。「アンタレス」と「take it easy」という作品です。

しかし、一部、二部を読んでいなくても、あまり不具合を感じないように書いたつもりですので、この作品だけ読んでいただいても大丈夫です。

 

<小説「Angel/小さな翼を広げて」~その1~>

僕はいつものように仕事に出かけた。過労であっけなく死んでしまった医者の従兄からの形見分けの小さなフィアットで由美を保育所に預け、仕事場に向かう。車で十五分ほど行くと僕の仕事場がある。「夢工房おひさま」という手作りの小さな看板の店だ。僕の大学の先輩が九年前に立ち上げた工房だ。十人ほどの人たちが働いている。軽い「障害」を持った人達も居る。

「圭介、おまえのようなナイーブな神経の人間には、一般の会社勤めは難しいだろう。オレの仕事を手伝ってくれ。大した給料は出せないけど、そこそこ暮らしてはいけると思う」

口ひげを生やした大きな体の先輩が大まじめに言った。小さいけど優しい目は少し笑っていたけど。

先輩の言うように、ナイーブなのかどうかはわからないが、僕は小さい時から人とうまくつきあえなかった。しかし、例外的に、小・中学校の時に同級生だった森田さんという女の子と、高校生の時の加藤君、結城さんという三人の友人がいた。三人とも今は、僕の周りにはいない。森田さんは中学の途中で転校して行った。加藤君は高校を卒業すると両親の住むボストンの大学に入学した。結城さんは以前から住みたいと思っていた京都に住み、そこの大学に入学した。結城さんはバランス良く美しいまま大人になっていた。そして、僕は地元のー富士山が見えること位しか特徴の無い小都市ー国立大学に進学した。大学のある町までは通えない距離ではなかったが、僕は僕自身のために親元を離れてアパートを借りることにした。僕にしては大きな決心だった。僕ら三人はバラバラになってしまったけど、たぶん、いつもお互いの心の中に、それほど小さくない特別のテリトリーを持っているのだと思う。僕らはお互い誠実であり、三人で唄う歌がきれいにハモるように、僕らには個人的な共鳴がずーっと続いているのだと思う。だから僕はちっとも孤独ではない。(つづく)

melody

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