小説「Angel/小さな翼を広げて」~その11~
「でも、ナイフを持って子どもの人質を連れて教室に立てこもったら先生達はどうするの?」
僕はそんな時はどうして良いのか想像出来なかった。
「不審者を発見したらまず放送するの。学校には居ない架空の先生の名前を呼ぶの。例えば『田中先生、お客様です。至急職員室にお戻りください。三番でお待ちです』てね。続けて三回放送するの。三番というのは三階という意味なの。それが合図よ。係の先生が警察に電話して、担任はすぐに他の子ども達を運動場に避難誘導する。男の先生達はさすまたを持って校長室にとりあえず集まるのよ。それから現場にかけつけ、みんなで遠巻きに犯人を取り囲むの。警察が来るまで時間稼ぎをするの。そして、隙を見て取り押さえるって校長先生は言ってたけど、そんなこと出来ないよね」
僕もそんなこと出来ないと思った。出来れば、森田さんがそんな目に遭わないようにと心から願った。レッサーパンダが僕らを見て、首を傾げる仕草をした。それを見てクスッと笑って森田さんが言った。
「ねえ、立川君。高校の時のお友達の話を聞かせて」
「高校の時の友だちと言えば、加藤君と結城さんだけだよ。君が興味を持つような話があったかな?」
ソフトクリームを少し囓った。
「吹き矢をしたり、バンドをやっていたって言ってたわね。それ、すごく面白そう。吹き矢ってどんな風にするの?」
僕は両手を挙げて筒を構える格好をして、プッと吹いた。
「ヒューッと飛んで、的に突き刺さる。スリリングで、しかも健康的だ」
「ふぅーん、で、誰が一番上手だったの?」
「そうだね。結城さんかな? 彼女は僕らの後から始めたんだけど、僕らよりも上手くなった。熱心に練習してたなー。何か目的を持って練習しているみたいだった」
「目的って?」
森田さんはソフトクリームを少し嘗めた。
「例えば、吹き矢を的に当てる代わりに、物か、誰かに当てるとか……。つまり、吹き矢本来の目的のために」
「そうか、吹き矢って武器なんだよね。でも、誰に当てるんだろう?」
僕はちょっと考える振りをしてからソフトクリームを少し嘗めた
「さあ、誰だろう? でも、誰でも一人くらい吹き矢を当てたい人間っているんじゃないかな。例えば、中学生の時、僕をプールで沈めようとした田中君とか」
「そうね。いるかもしれないわ。そうやって心の中で何人かに吹き矢を当ててきたのかもしれない」
「森田さんもそういう人間がいるの?」
「いるかもしれないわ」
今度はコーンをがりっと囓った。(つづく)
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コメント
不審者が侵入した際の校内放送
なるほどなぁでした。
勿論、そういうことが起きないに
越したことはないのですが、
まさかの時は、こういう方法で
何とかクリアして欲しいですね。
小説の中でも起きちゃうのかなぁ。
投稿: casa blanca | 2014年11月17日 (月) 17時41分
casa blancaさん、今晩は。
いつもありがとうございます。
日本の学校も危機管理が非常に重要になっているようですね。いやな事件が多いですからね。
>小説の中でも起きちゃうのかなぁ。
起きるかもしれませんよ
投稿: モーツアルト | 2014年11月17日 (月) 18時39分
おはようございます
デパートなどの店内放送なども
いろいろ工夫しているようですね
雨が降ってくると、
各店舗にお知らせするために、
暗号のようなアナウンスがあるようです。
不審者の侵入では、刺激してはいけませんから、
アナウンスも工夫が必要なことだと思います。
以前の小説にも吹き矢が登場しましたが、
モーツァルトさんの趣味だったりして…。
投稿: くるたんパパ | 2014年11月18日 (火) 05時54分