小説「Angel/小さな翼を広げて」~その12~
※久しぶりの再開になってしまいました。すみません。
いよいよ、話も大詰めに近づいて来ました。
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「さあ、誰だろう? でも、誰でも一人くらい吹き矢を当てたい人間っているんじゃないかな。例えば、中学生の時、僕をプールで沈めようとした田中君とか」
「そうね。いるかもしれないわ。そうやって心の中で何人かに吹き矢を当ててきたのかもしれない」
「森田さんもそういう人間がいるの?」
「いるかもしれないわ」
今度はコーンをがりっと囓った。
「吹き矢、やってみたいなー。立川君持ってるの?」
「あれからしてないけど、実家に行けば、あると思う」
僕もコーンをガリッと囓った。レッサーパンダがじゃれ合っている。とりあえず、実家実家に取りに行って、森田さんに見せる約束をした。
一週間後に吹き矢を取りに行った。吹き矢と練習用の矢。それと、加藤君から貰った特殊なー中南米で狩猟用に使っているー矢も一緒に箱に入れた。森田さんにメールをしてその旨を伝えると、放課後、営業のついでに、持ってきて見せて欲しいとのことだった。
♠
男が歩いている。グレーのフード付きトレーナーにジーンズ。そして黒いスニーカー。デイバッグを背負って、ポケットに両手を突っ込んで歩いている。独り言を言っていなかったら特に何も思わない二十代の男。少し長く伸びた髪の下の顔は色彩が無かった。しかし、唇だけが妙に赤い。下校途中の小学生の男の子二人がすれ違った。五、六年生だろうか、ランドセルではなくビニールのナイキのロゴの入ったスポーツバッグを肩に掛けていた。二人とも結構背が高い。二人はすれ違った後にすぐに振り返って男を見た。一人の子が大きな声で笑った。
「変なやつ」
もう一人の子が「シッ!」と言って人差し指を口に当てた。男の子が慌てて口を押さえ、それからもう一度振り返った。男が立ち止まって見ていた。にっと笑った後、赤い唇が何度か動いた。
「コロスぞ」
そう発音したに違いない。男は元に戻って、またぶつぶつ言いながら歩いて行った。
突然、森田さんが居た。学校の教室だと思う。すぐ目の前にあるモノを見て表情が静止していた。何も考えていない、何も思っていない。思考も感情も一瞬どこかに置いてきたような透明な顔だった。そして、その後大きく歪んだ。天井の蛍光灯の光で少しだけ光った鋭い登山ナイフの刃先が森田さんの胸に突き刺さる。ちょうど左胸のピンクのアディダスのロゴの辺りだった。森田さんは大きく口を開け、何も見ていない目を大きく開け、そのすぐ後にそれらを大きく歪めた。ピューッと大きな音がした。それは、森田さんの口から出た声なのか、胸から出た血液の音なのかよく分からなかった。血と脂が付いたナイフを持つ手が見えた。腕から肩、そして首筋、やがて男の顔が見えてきた。色彩を欠いた顔に唇だけが妙に赤かった。よだれを垂らしたその唇が何度か動いた。
「ころしてやる」
僕はなかなか開かない瞼を何とか開けようと何度も試みた。でもダメだった。ー夢ではないんだ。お前が見てるのは現実だー 誰かが囁く。森田さんが倒れていた。俯せのグレーのジャージ。上着の下から赤い血が流れていた。それはまるで、図工の時間に、水彩絵の具の水入れを誰かがこぼしたようにジワッと広がっていった。太陽を塗った赤い絵の具だ。八月、あの日の運動場の太陽と同じだった。僕は今度こそ、しっかりと瞼を開けた。暗い僕の部屋だった。首の周りにべっとりと汗がついていた。(つづく)
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コメント
スクロールするのが怖かった。
やめて、殺さないでと願いつつ
ドキドキしました。
夢ですよね、現実とは違うんですよね。
正夢だなんて、嫌ですよぉ~
投稿: casa blanca | 2014年12月 3日 (水) 20時43分
おはようございます
なんか恐ろしいことになりましたね
ドキドキしながら次回の更新待ちます
投稿: くるたんパパ | 2014年12月 4日 (木) 05時17分
casa blancaさん、こんばんは。
いつもありがとうございます。
>正夢だなんて、嫌ですよぉ~
そうですね。今回、少しサスペンスぽい感じですね。
ちょっと怖い感じになるかもしれません。
投稿: モーツアルト | 2014年12月 4日 (木) 23時06分
くるたんパパさん、こんばんは。
いつもありがとうございます。
>ドキドキしながら次回の更新待ちます
ちょっとサスペンスぽい展開です。実は、こういうのが好きなので、ドキドキ、わくわくしながら書いています。
次回是非読んで下さい。
投稿: モーツアルト | 2014年12月 4日 (木) 23時10分