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2014年12月 6日 (土)

小説「Angel/小さな翼を広げて」~その14~

「教務主任、警察に電話!」

誰かの鋭い声が聞こえた。慌ただしく職員室を駆け出す足音がいくつも聞こえた。僕は吹き矢の段ボールを抱えて廊下に出た。さすまたを手に持った数人の男性教師の後について走った。管理棟の廊下の奥の階段を一気に三階まで駆け上った。胸が苦しい。階段を駆け上がったせいなのか、緊張のせいなのか分からなかった。一緒に上った三人の教師と顔を見合わせ小さく頷く。どの顔にも色が無かった。足音を抑えて、呼吸さえも抑えて、教室棟に至る廊下を早足に歩いて教室に近づく。犯人を刺激するのは危険だ。廊下の突き当たりの両側に五、六年生の教室が二つずつある。左側の六年の教室には誰もいない。もうすでに下校しているようだ。教室は開放教室で教室の前には両クラス共通の多目的スペースがある。教室と同じ位の広さの板敷きで、今は人の気配を失ったがらんとした空間である。多目的スペースの窓辺に置かれたメダカの水槽からエアポンプのポコポコという音だけが微かに聞こえる。廊下を挟んで右側の五年生の教室は一クラスは下校済みで誰もいない。どうやら奥のクラスだけがまだ下校していなかったらしく、そこに犯人も居るはずだ。

「森田先生のクラスだな」

五分刈りの教師が隣の教師にささやいた。痩せた教師が頷く。「体育の後だったんで下校が遅くなったんだな」と呟く。

廊下の資料戸棚の陰から多目的スペースを通して教室の様子を見る。ここの教室は、多目的スペースとの境の壁が無く一体になっている。二十人近くの子どもと、森田さん。そして、登山ナイフを持った二十代の男が居た。フード付きのグレーのトレーナーにジーンズ。脱ぎ捨てられたスリッパが近くに裏返っていた。机は後ろに動かされ、子ども達と森田さんが黒板の前に集められていた。黒板の真ん中に「<宿題>お友達と仲良く遊ぶこと」と白いチョークで書いてあった。男は子ども達の前に陣取り、森田さんに登山ナイフの刃先を向けていた。街で見かけても特に印象にも残らない普通の男だ。妙に落ち着いた男は唇に微かな笑みさえ浮かべていた。色彩を欠いた表情の中で、赤味を帯びた唇が不気味だった。こちらから見ると後ろ向きになっている子ども達は、まだ体操服のままの子も何人かいた。上だけ、ゼッケンの付いた体操服の女の子もいた。声こそ出さなかったが、一様に肩が震え、体操座りの膝がカタカタと鳴っているようだった。その音さえ聞こえてきそうな位だった。森田さんの右手のジャージが破れて赤い筋が見えた。そして、その下の床にも赤い色のシミが見える。

「血だ!」(つづく)

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コメント

森田さんが危ない!
早く助けないと…。

ドキドキ…。

投稿: くるたんパパ | 2014年12月 6日 (土) 18時37分

くるたんパパさん、こんばんは。
コメントが遅くなってすみません。
いつもありかとうございます。

そうなんです。森田さん危機一髪です。
どうなんるんでしょう?
だいたい予想はつくと思うのですが(^^;)

いつの日か、予想も付かないような結末を書きたいと思っています。

投稿: モーツアルト | 2014年12月 8日 (月) 19時53分

何としても森田さんや子供達を
助けて欲しい。
助けてくれると信じてます。

投稿: casa blanca | 2014年12月14日 (日) 21時21分

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