小説「Angel/小さな翼を広げて」~その13~
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前の学校での営業が、予定よりかなり早く終わったので、放課後まで少し時間があるがとりあえず森田さんのF小学校に向かうことにした。夢工房のワンボックス車には母親から送って貰った吹き矢セットの細長い段ボールがそのまま積んである。森田さんから借りたAngelを聞きながらゆっくり車を走らせた。
「Angel あなたの中の静かなる幻想の残骸
そこから助け出されるわ
天使の腕の中にあなたはいるの
ここで安らぎを見つけられますように」
昨日の夢が、ただの夢に変わっていくように静かに浄化されていく。角を曲がった所でグレーのトレーナーの若い男を追い抜いた。一瞬頭の中が微かにざわついた。校門は開いていた。学生達が十数人、門の所に居た。森田さんが話していた英語ボランティアの学生だろう。<S外語大>というロゴの入ったカバンを持った学生もいた。全員揃うのを待っているようで、それぞれ思い思いに冗談を言い合い笑っている。車を駐め、バックミラーを何気なく見た。グレーのトレーナーの男が学生達の群れを抜けて玄関に向かったような気がした。
学校の玄関でスリッパに履き替えながら壁のレリーフのオリオンに軽く頭を下げて挨拶する。放課後までまだ少し時間があるので、挨拶をして職員室の後ろの接客兼休養室で待たせてもらうことにした。コーヒーの染みの付いたソファーも傷跡だらけのテーブルも、「労働組合に入ろう! あなたを待っています」というポスターも、何の違和感もなく、むしろ寛ぎすら感じる。僕は森田さんと吹き矢をしている自分を想像してみた。結城さんと同じように、森田さんもすぐに僕より上手になるような気がした。そして、初めてなのに白い三点の的に当てて「難しいけど、すごく気持ち良いね」って言うんだ。
突然、チャイムの音が天井のスピーカーから聞こえた。それに続いて
「田中先生、お客様です。至急職員室にお帰り下さい。三番でお待ちです」
同じ放送が三回続いた。三回目の放送で僕の心臓がピクンと動いた。職員室がざわざわとなった。
「教務主任、警察に電話!」(つづく)
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コメント
わっ、正夢になりそうな気配。
ただ、こういう事件が起きた場合の
対処策を聞いていた立川君
校内放送でピンときたようですね。
皆さんの連係プレイで大惨事に
なりませんように。
投稿: casa blanca | 2014年12月 5日 (金) 00時14分
おはようございます
読んでいて緊張してきました。
心臓がバクバク鼓動してます。
やはり危機管理対策は重要ですね
投稿: くるたんパパ | 2014年12月 5日 (金) 05時24分
casa blancaさん、今晩は。
いつもありがとうございます。
いよいよ大詰めになりました。最後どうなるのかお楽しみに!!
これからもよろしくお願いします。
投稿: モーツアルト | 2014年12月 5日 (金) 23時38分
くるたんパパさん、 今晩は。
いつもありがとうございます。
そうですね。最近何があるかわかりませんので、危機管理対策は欠かせませんね。
いよいよ大詰めです。最後まで読んでいただいたら幸いです。よろしくお願いします。
投稿: モーツアルト | 2014年12月 5日 (金) 23時41分