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2014年12月14日 (日)

小説「Angel/小さな翼を広げて」~その15~

「血だ!」

僕の頭の中で、リモコンでテレビを点けるみたいにカチッとスイッチが入った。素早く段ボールから吹き矢を取り出し、組み立てて、筒に矢を入れる。加藤君から貰ったクラーレの毒矢だ。教師達が驚いた顔をして僕を見た。僕は人差し指を口に当てて制止した。資料棚に身体を隠し、棚と壁の僅かの隙間から筒を出す。筒の十五m先に男が居る。ナイフを持った右手に狙いをつける。

突然、男の前に座っていた女の子が泣き出した。後ろで二つに括った髪が激しく震えた。男が顔をしかめてその子に近づいた。同時に森田さんが女の子の前に立ちはだかる。両手を大きく広げて

「やめなさいよ!」

森田さんの鋭い声が天井にはね返る。きっと、あの大きな目で男を睨んでいるんだ。

たぶん実際は一秒の何分の一かもしれないが、中学生の時のあの光景が浮かんだ。田中の指図で弁当にオモチャのゴキブリを入れられた時の教室だ。

「あなたね」

森田さんがそう言うと、田中は、周りを意識しながらニヤニヤと笑った。でも、目は笑っていなかった。少し短く刈り上げた右側のこめかみに汗が浮かんで、それがピクピクと小さく動いていた。

「証拠はあんのかよ」

ポケットに手を突っ込んで立ち上がった。お腹を少し出している。

「無いわ。でも私には分かる」

そう言うと、いきなり田中のほっぺを、大きく開いた左手ではさみ、口を開かせた。そして、右手に持った茶色い虫をその口に入れた。遠くで見ていた女子がまたまた悲鳴を上げた。

「グエッ」

奇妙な声を出して、田中は虫を吐きだした。虫は二つ隣にいた男子の上靴の上に落ちた。それは、見るからに本物っぽかった。

「ウオオオオオー」

gokiburi

と、奇妙な声を出して、虫の乗った右足を大きく振り上げた。茶色い虫は大きな軌跡を描いて、―そう、まるでゴキブリが羽を広げて飛んでいるように―離れて見ていた女子の頭に落ちた。

「何すんだ、このやろー」

と言って田中が森田さんに殴りかかった。森田さんは上半身を左にかわしてやり過ごそうとした。田中の拳が森田さんのほっぺたすれすれで空を切った。髪が左になびき、左の耳が露わになった。でも、そのままバランスを崩し、大きく傾き床に倒れ込んだ。八重歯が少しのぞいた口許が痛そうに歪んでいた。それが僕にはとても悲しい表情に見えた。田中が森田さんの脇腹に蹴りを入れようとして構えた。

「やめろ!」

生まれてから一度も大きな声を出したことが無い僕は、その声が僕の口から出たものだとは少しの間信じられなかった。でも、田中の動きが止まった。そして、ゆっくり僕の方を見た。田中だけでなく教室のみんなが、その声が僕のものではないことを確認するように僕の方を見た。たくさんの視線を跳ね返すように、僕は田中の方に駆けだし、お腹に頭突きを繰り出した。途中、何人かの子にぶつかったような気がしたが、そんなことは大したことではなかった。僕は夢中で田中にしがみついて離れなかった。僕を乗せたまま後ろ向きに倒れた田中は床に頭を打ち付けた。(つづく)

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コメント

なんか旬な話題ですね

ペヤングの異物混入事件、
入っていた虫は、まさにゴキ××だったようで…。

投稿: くるたんパパ | 2014年12月14日 (日) 17時58分

森田さんの腕の毛がが気になるぅ。

昔は、ウォーーって声を上げたけど、
今回は声を押し殺して吹き矢で
頑張るのよ!!
命中しますように。

投稿: casa blanca | 2014年12月14日 (日) 21時24分

こういう展開になるのですね。
とても納得できます。

文章にリズムとテンポがあって、たいへん読みやすいです。

これから、一挙にクライマックスですね。

投稿: 三日月猫 | 2014年12月15日 (月) 10時38分

くるたんパパさん、こんにちは。いつもありがとうございます。コメントが遅くなってすみません。

ペヤングの事件知ってますよ。会社としての対応が良かったとテレビで言ってましたね。
ゴキブリはムカデの次に苦手です。この小説で登場した時も、何だかざわざわしながら書いてました

投稿: モーツアルト | 2014年12月17日 (水) 12時30分

casa blancaさん、こんにちは。いつもありがとうございます。コメントが遅くなってすみません。

いよいよラストに近づいて来ました。結末はだいたい予想がつくと思いますが、最後までよろしくお願いします。
今、後編を書いているのですが、なかなか思うように進みません。頑張ります。

投稿: モーツアルト | 2014年12月17日 (水) 12時33分

三日月猫さん、こんにちは。いつもありがとうございます。コメントが遅くなってすみません。

>文章にリズムとテンポがあって、たいへん読みやすいです。

これから、一挙にクライマックスですね。

どうもありがとうございます。随分引き延ばしてしまいましたが、いよいよラストを迎えます。だいたい予想がつくと思いますが、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。前半が終わり後半を書いているのですが、なかなか思うように進みません。忙しさにかまけて、小説を書く時間をうまく作れず、無為に時間を過ごしているような気がします。早く後編を書き終えて、区切りをつけたいのですが、なかなかです。頑張ります。

投稿: モーツアルト | 2014年12月17日 (水) 12時40分

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