再会
ツタヤT-SITEの4階。下のグラウンズベイカーで買って来たサンドイッチとスターバックスのコーヒーを小さなテーブルに置いて本を読んでいた。
ページをめくって顔を上げると、半分雲に隠れた太陽が大きなガラス窓の向こうに浮かんでいた。その時、フッと懐かしい香りを感じた。香りなのか気配なのか、その両方かもしれない。
女性と目が合った。彼女は一瞬大きく目を見開き、そしてすぐに、その目が穏やかに緩んだ。僕も同じような表情をしていたかもしれない。
「久しぶりね……元気そう……」
彼女は立ち止まってそう言った。読んでいた本をテーブルに置いて、僕も立ち上がる。
「……君も元気そうだ。何年ぶりかな?」
薄手の綿ニットのセーターにスカート。彼女はそれ程変わっていないと思った。もちろん当時の若さではないし、過ぎてきた年月は十分感じる。でも、きれいだった。
「三十年は経つわね。この街もずいぶん変わった。こんなステキな店も出来たし……」
「ずっと住んでるとあまり分からないけどね。君は東京だったよね」
「兄が入院してお見舞いに来たの。明日帰る予定」
少しの間、お互いの近況などを話した。その後、話が途切れた。彼女はテーブルの本とコーヒーに少しだけ目を遣った後、
「邪魔してごめんね。お元気で。また会えるといいね」
と言った。
もう会うことはないだろう。
雑誌を抱えた若者の間を通り抜け、エスカレーターに向かう後ろ姿を見送りながらそう思った。でも、奇蹟のようにここで出会えたことに感謝せずにはおれなかった。彼女は、下りのエスカレーターに足を乗せてから僕の方を見た。微笑んだ顔の横で小さく手を振った。ボーッと見ていた僕も小さく手を振った。
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コメント
偶然の出会いは、ときめく暇もなく、
あっという間に過ぎて過去の出来ごとになりますよね。
そして、あとからもうそんな偶然はないってことに気がつき、
悔やんだりします。
なんかいい話しでした👍
投稿: たろ | 2016年10月27日 (木) 05時18分
おはようございます。
小説に出てくるような再会が
起きるなんて、素敵ですね。
朝から心が時めいちゃいました。
私もいいこと起こらないかなぁ。
投稿: casa blanca | 2016年10月27日 (木) 06時27分
おはようございます。
>偶然の出会いは、ときめく暇もなく、
あっという間に過ぎて過去の出来ごとになりますよね。
本当にその通りなのです。僕が言いたくて、言葉にならなかったことを上手く表現していただきました。
でも、そんな偶然がごく希に起きるものだと改めて感心しました。
>そして、あとからもうそんな偶然はないってことに気がつき、
悔やんだりします。
そうなんですよね……。
投稿: モーツアルト | 2016年10月27日 (木) 07時04分
casa blancaさん
おはようございます。お久しぶりです。
>小説に出てくるような再会が
起きるなんて、素敵ですね。
ごく希にそういうことが起きたりするのですね。僕も驚きました。セロトニンが少し増えたと思います。
ちょっと小説っぽく書いてみました(^^)。
投稿: モーツアルト | 2016年10月27日 (木) 07時15分
モーツアルトさん。
昨晩,わたしのてんとう虫のところにいただいたコメントに,
「せめてトキメキでもあれば…」
と,ありましたが…
拝読した直後にこちらに来てみたら,
ばっちりときめいてるじゃないですか
初めは小説かと思いましたが,
カテゴリーが「日記・コラム・つぶやき」だし…
勝手にドキドキしてしまいました。
゜.+:。(*´v`*)゜.+:。
投稿: a-kaki | 2016年10月27日 (木) 23時58分
a-kakiさん
>初めは小説かと思いましたが,
カテゴリーが「日記・コラム・つぶやき」だし…
勝手にドキドキしてしまいました。
そうなんです。ときめいてしまいました(^^;)
でも、偶然ってあるんですね。シンクロニシティかもしれません。
エッセイ風にそのまま書こうと思ったのですが、やっぱり、小説っぽくなってしまいます。
セロトニンが増えたかもしれません(^^)
投稿: モーツアルト | 2016年10月28日 (金) 07時47分